絵文字にもなっているトルコの伝統的なお守り「ナザール・ボンジュウ」を身につけていたことがきっかけで、ひげ面のトルコ料理人に拉致されてしまう主人公。なんやかんやあって、そのお店でアルバイトすることになり、その縁を通じてさまざまな人々やトルコの文化に触れあっていく。
白い街の夜たち 1 | 白い街の夜たち | ビームコミックス | 月刊コミックビーム
という感じの漫画「白い街の夜たち」を読みました。思っていたより人間ドラマが渋くて、一番印象的な登場人物に、主人公に「ナザール・ボンジュウ」をプレゼントする地元の友達というのがいるのですけど、彼女は子供のころから虚言癖があって、主人公以外にはまともな友達がいない。
けど、主人公も主人公で、彼女にたいして恐れとも安心とも取れる複雑な感情を抱いていて、傷つくようなことを言われつつも、なんやかんや関係が続いているという、嫌な現実感のある造形となっている。ほかのキャラも絶妙に嫌みのつけどころがあって、読んでいて「ああ…」となります。
それに対して「トルコ料理」を癒し・逃避所として置けばそれはかんたんな物語になるのですが、そうはせず、信頼できる関係性だけがある天国ではなく、かといってわかりやすい試練や敵がいるわけでもない、ただリアルな摩擦のある人生のひとコマがやさしく丁寧に描かれている。
現実は複雑で、結局生きることはその表面をさっとなぞるだけにしかすぎないのだけど、その事実をしっかり見据え、現実の似姿としてフィクション上に表現するしかない。そんな覚悟が感じられるストーリーテリングである。
ただ、たんにシビアなだけではなく、同時にトルコの文物へのロマンチックな偏愛が描かれていることも特徴で、この甘さと渋さがいい感じのバランスになっているんですよね。読んでいていやな気持にもなるし、同時にすごく癒される。この塩梅がこの「白い街の夜たち」をひとつ特別な水準に引き上げていると思う。
サブカル青年誌っぽい演出がいくつかあって、マンガ作品としての見せどころもたくさんある。絵も基本的には抜きながら、ここぞというところでは気合の入ったものが出てくる。
実写化向きの作品だと思いますが、大手テレビのドラマだと、たぶん、毒気が全部抜かれて作品としての狙いがまったく捻じ曲げられる……、といういつものパターンになりそうですね。逆にサブカル映画になったらかなりヒットするのではないでしょうか。実際傑作で、このまま無名作品でいるのはよくないと思うので、映画化決定の報は絶対に待ちたい。