重大な分岐点
タイトルに書いてあるとおり、プロ生活をスター選手のサポートに捧げ、自身は平均的な成績を残すにとどまったひとりの自転車選手を描いた、こちらの自伝的ノンフィクション『ラフ・ライド――アベレージレーサーのツール・ド・フランス』には、目次の前にちょっとした前書きが置かれている。
その前書きには……、この本が作者の意図を離れて、「あるポイント」のみにフォーカスされて読まれ、結果、出版された当時のアイルランドの自転車界にちょっとした騒動を巻き起こしたことについて、作者の意見がかかれている。
ただ、読み進めていくとはっきりするのですが、その「ポイント」は本当にこの本の一部にしか過ぎなくて、この本の持つ傑出性とはそんなにはっきりとした関係はないんですよね。
でも、先に前書きで書かれちゃっているので、どうしてもそのポイントに最初は注目してしまうし、本編の内容(特に終盤)もなんか読んでいて悲しくなっちゃう。
そもそも前書きは、『ラフ・ライド』が出て何年も後に書かれたものだし、その前書き中でも、作者はあえて本編をほとんど修正しなかったと言っている。読む順番としては、前書きは飛ばして、本編を先に読んで、そのあと前書きを読んで、……もし読み返したくなったら本編をもう一度読んで、そうでないのなら後書きにすすむのがいいんじゃないかな、と思いました。書かれた順番に読むのが、一番でしょう何事も!
(ただ、前書きを先に読まないと、この本は興味を持って読めるようになるまでちょっと時間がかかるかもしれない、というデメリットもある。これはトレードオフですかね…。しかしそれでも前書きを飛ばすという選択肢はあります。注意して決めたほうがいいです。ある本を初読できるのは、人生で一回限りなのですから)
もしこれからこの本を読んでみようかなと思う人がいれば(ちなみに大傑作です。めちゃくちゃ面白いです)、ぜひ、上の読みかたを試すのを一考してもらえたらな、と思います。どういう本かな~と検索すると必ず「ポイント」についてのネタバレを踏むので下調べもしないほうが吉かもですね。
ポール・キメイジ 著『ラフ・ライド――アベレージレーサーのツール・ド・フランス』(未知谷 刊/ISBN4-915841-86-3)の内容詳細
ちなみにこの本、『ラフ・ライド――アベレージレーサーのツール・ド・フランス』は、とある自転車好きの子供が、アマチュアのレーサーになり、そしてプロの世界で辛苦を舐めながらも走り続けた人生を、ちょっとシビアに、でも人間への愛をもって描いた、選手自身による自転車ノンフィクション作品です。
とくにツール・ド・フランスの長い道のりを、各ステージごとに日記のように書き付けたシーケンスは、すごいテンポと臨場感。自転車競技をよく知らなくても楽しんで、……いやたのしくはないかもですが、でも面白く読めると思います。
デンマーク人のロルフ・ソレンセンは落ち方が悪かったらしい。通り過ぎるとき、頭から大量に血を流しながら防護壁にもたれかかっているのが見えた。レース役員が素早く助けに行き、舌で窒息するのを防いでからすぐに病院へ運んだ。横たわる彼の姿を見て、こんな危険な仕事をすることにふと疑問を感じた。ステファンに聞くと、彼もそうだという。僕だけではなかったのだ。だが疑問を感じるのはそれでおしまい。さっさと忘れることだ。それが人生だ。
一九九〇年に出版されたとき、『ラフ・ライド』は自転車選手を描いた本で、スポーツライターを描いた本ではなかった。いまもそれに変わりはない。