家の中に入る時の
あの 祈る気持ち
聞いた話 十二支がいまみたいに全員揃うのは初めてなんだって
だから これは凄い事だとお局たちは喜んでたけど 僕は違うことを考えてた
これが最後の宴会だから全員揃っただけなんじゃないかって
「フルーツバスケット」を読んでいました。すごい傑作なのでまだの人はウェイトリストに入れておいたほうがいいと思いました。
異性と触れ合ったり体が弱ったりするとそれぞれ、ねずみやうし、とらなど十二支の生き物になってしまう特異体質を背負った「草摩」家の人々と、そこに居候することになった薄幸ながら健気な女の子「本田透」のお話。
動物に変わっちゃうギミックを活用したちょっとエッチなハプニング*1ラブコメディだったり、あるいは、それぞれのメンバーが自分の動物を生かしたバトル能力を持ち、ほかの十二支を背負った一族と覇権を争うトーナメントに出場する…、といったバトル展開になってもよさそうであるが、そうではなく、足腰のしっかりした人間ドラマが描かれる。
どこがいいのかというと、この作品は本当にお話が面白い。中盤あたりから徐々に草摩家の謎や彼ら彼女らを縛る悲しい運命が明らかにされていき、同時に作品全体のトーンもすごく暗くなっていくのですが、そこのお話がすごく面白いのです。
展開はショッキングで驚きのものも多いんだけど、「わかる」んですよね。種がちゃんと巻かれていて、根回しも水やりも丁寧で、理解できる。分かったうえででも「ああ、そう進んでいくのか…泣」となっちゃうような、ついていく読者を一歩ぶん上回るようなストーリーがずっと続いていて、物語を読むことの快楽がすごい。フィクションとしての質がすごく高いです。
心理描写やエピソードは大人の感傷にもたえる説得力や深みがある。*2描かれているテーマも、……愛されたいと思う気持ちと家庭の中で振るわれる無形の暴力*3という、非常に普遍的、現代でも共感できるようなもので、いま読んでもいつ読んでも面白いと思う。
神さまに会いに行くレースをした12の動物たちと、ねずみに騙されて干支に加われなかった猫、……というモチーフの扱い方も素晴らしい。
キャラクターも魅力的で、十二(+1)支はすっと頭に入ってくるし、お気に入りも見つかるのではないでしょうか。個人的には紫呉、あーや、はとりさんの年長組が好きです。
ストーリーの構造とか雰囲気とか、あと設定とか、なんかいわゆる「名作エロゲ」とけっこう似ていると思う*4のでそのへんが好きな人にも、……その辺が好きな人はふつうは「フルーツバスケット」を手に取ることはないと思いますが、でも手に取ったらひょっとしたら刺さるんじゃないかと思うのでとくにおすすめです。
そしてとくにとはいかないけどべつに万人が読んで面白いと思うと思うので、万人にもおすすめします。
解けて改めて… 振り返ってみてみれば確かに
"絆"(それ)は不自然だったようにも思う
楝さんの… 言うとおり
だけど もうひとつ見えたモノもあるんだ
泣いている 女の子…
読みはじめて「本田透」のキャラとかしゃべり方に違和感を持つ人もいるかもしれませんが、そう思った人はマジで絶対最後まで読んでくれ。ちゃんと理由はあるし、なによりそんな理由でこの傑作から離脱されるのは僕は本当に自分が許せない、大罪です。