CoCo壱で思った通りのカレーを注文

 

 CoCo壱というのは不思議なチェーン店で、嫌いな人もいれば好きな人もいるけれど、好きな人は「嫌い」という意見を「まあ一理ある」と思っており、その「嫌い」としてありうる理由の部分をそれはそれとして受け止めたうえで、なお好きでいるのである。

 

 僕はCoCo壱が好きがわの人間なのだけど、まあ高いというのはネックとしてある。カレーは自分で作ったほうがはるかにコスパ良くカスタマイザブルに作れるし、レトルトでも安いしおいしいのがいっぱいある。外食するにしても、「カレー」を本格的に味わいたいならば、専門店のほうが工夫のあるメニューを出しているし、ただカレーを食べたいだけならばCoCo壱はちょっと割高にうつる。

 ただ、そういうところも全部含めて、なんだか好きなんですよね「カレーハウスCoCo壱番屋」。

 

 ふだんCoCo壱に行くと、やっぱりちょっとふつうに注文すると思ったより高くつく。なので、「これとこれをトッピングしたいんだけど、……じゃあチーズは今回はやめておくか、辛さも4辛じゃなくて普通にしてコストを抑えよう」とコスト計算をしてしまうのだけど、今日はめでたいことがあったのでとくに考えず、乗せたいものをぜんぶ乗せることにした。

 

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 そんなにたくさんは食べられないので、乗せたいものぜんぶ乗せるといってもこれくらいなのだけど、……CoCo壱での気ままな注文はとても良かった。ナスとソーセージを載せただけなのにご飯が見えなくなっちゃっていて、一旦トッピングが邪魔で、ご飯よりさきに食べないとご飯が食べられない、という富裕層の食卓のような気持ちを味わえた。

 

 

 ひととおり食べ終わって「さて、スプーンを置くか」となっていたときに、店の奥に本棚があって「マンガ! 14時から自由に読んでOK」と書かれているのを見つけた。客がすくなくなる時間帯はちょっとした長居をしてもいいみたいだ。

 

 鬼滅の刃を読んだのだけど、面白くて気づいたときには遊郭編が終わっていた。なんなんでしょうねこれ、たしかにストーリーテリングは良くなくて、戦闘以外のドラマもなく、バトルの流れも「敵のすごい技で負けそうになるたびに、戦いのなかで炭治郎が成長するか柱が助けに来るか禰豆子が助けてくれるんだけど、また敵も奥の手を出して窮地に…」の繰り返しで意外性はない。キャラクターも一見立っているようではあるんだけど、それを話に生かしているわけではない。

 

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 けれど、つぎに気づいたときには最終巻を読み終わっていて、ぼろぼろ泣いていた。カレーをもう一皿注文した。けっこう辛いものが好きなのでふだんはCoCo壱では4辛くらいを頼むのだけど、今回はすでに粘膜が活性化していることを鑑みて、甘口にした。

 

 カレーを食べながら、なにが面白かったんだろうと考えてみるけれど、たぶんひとつにはセンスがへんだというところ。作者の吾峠呼世晴さんは、――もう本人名前の時点ですでに変なのだけど、本当に変な細かい設定、キャラビジュアル、キャラの名前、キャラの言動を作ると思った。善逸の雀とか、「恋柱」とか見たときはびっくりした。

 

 そのままのセンスで大筋のお話や大筋の設定も作っていたら、変なセンスのひとが描いた変なマンガ……、というふうになっていたのじゃないかと思うのだけど、ここにかなりシンプルなバトルアクションを入れたのがかっこよかったと思う。

 「鬼滅の刃」は、バトルの理由だったり結末だったりを面白く語るドラマ性とか、戦闘中のシステマティックな駆け引きの面白さ、みたいなものをぜんぶ切っていて、戦闘におけるある人格とそれに相対する人格のぶつかり合い、それぞれの想いのぶつかり合いを描くことに全力を注いでいる。

 

 なので、戦闘中以外に目立つシーンはないし、戦闘も「どちらの人格が相手を上回るか」で戦闘の結果に説得力を持たせるしくみであるが、これは僕が幼少期と青年期を過ごした00年代の物語にはあんまりなかったので、一周まわってめっちゃ面白いという感じがした。

 

 ふつうバトルを面白くする、頭脳戦とか駆け引き要素だったり、大局との相互作用があんまり描かれないので、バトルという形式でありながら、描かれているのは(そのバトルの勝敗に説得力を持たせるものである)それぞれのキャラクターの生きざまやひととなりである。

 「鬼滅の刃」のキャラクター造形は、物語に絡ませて生かすという意味ではそんなに上出来ではないのだけど、「こういう人間だから、勝機をつかんだ」という理由にはなっている。

 

 全体として、得意なところと苦手なところの尖りが激しい作家性を持っていると思うのだけど、それをストイックなバトル漫画にのせることで、変なセンスの部分を純粋に、ひととなりを深めて行ける部分を効果的に配置した作品なのかなと思った。

 

 あと、アクションとセリフが重要な作品なのでアニメ化の映えしろがいっぱいあるのも良かったのかもしれない。最終的にはめっちゃ面白くて、満足してCoCo壱を出た。いちばん面白かったのは無限列車より前、とくに蜘蛛の鬼と戦うところで、好きなキャラは全員すきだけどしいて言うなら時透無一郎くんでした。