松本次郎さんのマンガ作品「フリージア」を読みました。もともと全12巻なのが、愛蔵版で全6巻に合冊されており、さらにそれを電子書籍化するにあたって各巻が(1)(2)と分割されていて12巻に戻っているという回りくどい作品でした。
犯罪被害者による「かたき討ち」が法制化されている社会で、そのかたき討ちを「代理執行」する仕事にスカウトされた男が主人公。この男はいきなり彼女(?)を隣に住むヤカラ風の男に寝取られており、いかにもオタク君という感じなのだが、実際はかなり強く、また精神に異常があってよく幻覚と会話をしているため物々しい雰囲気が出ている。
そんな主人公が犯罪者や犯罪者を守る「警護人」たちとガンアクションをするというお話。
背景には、なんの意味があるのかは本当に不明*1なのだが、戦争が起きていて、そのディテールが作中にさしはさまれている。
お話は出来不出来の差が激しく、また全体を通しての構成も散漫で意味をつかみづらい。基本的にはセンスと雰囲気に惹かれたものだけをとことんまで楽しませる、カルト作品という感じなのだけど、その形容からははみ出る良い部分もいくつかあった。
ひとつは、出来不出来が激しいとは言ったが、出来のいい話は非常に素晴らしいというところ。この作品で、おもに人間ドラマ的な側面は敵討ちを「執行」される相手側の人々が担うのですが、その人たちの描き方がどれも人間的でいいんですよね…。それを話としてまとめる段階でそこまでうまく行ってない、というところでクオリティの差は出ているのだが、一番クオリティが低い話でも人間たちは非常に特徴的に、愛らしく描かれている*2。そしてそれが作品のもうひとつの要であるバイオレンスを引き立てている。
もうひとつはバトルの描写に面白みがあること。コマの形はけっこうシンプルなのですが*3、絵の構図は効果的で、ガンアクション、……というか銃を握ってそれぞれの理由や目的に沿って闘う人間の外面や内面が丁寧に描かれている。戦闘描写以外のところに重心がある作風なのはそうだと思うのですが、それでもバトルも上記のような工夫があって面白いのである。
「フリージア愛蔵版 1」松本次郎 [ビームコミックス] - KADOKAWA
個人的に好きだったのがテロリスト上がりのトシオと、その友人で斜視のシバザキが「執行」対象となる回。だれしもにすすめられるような作品ではないですが、ハマるひとには大きな印象を与える、大傑作である。阿部和重とか、藤本タツキの作品が好きだとこちらも楽しめるかなと思いました。