最近徹昼*1することが多く、そのときにYUKIのアルバムをよく聞いている。YUKIの曲には目が覚めるような日本語のフレーズが1曲あたり平均1個あるのである。
1曲目:暴れたがっている
ただ、一心不乱に
長い台詞を覚えた解答者
YUKIの詩、予想もしないワードが意外な雰囲気のところで出てくるのでそこでまずは目が覚めてしまいますよね。
「長い台詞を覚えた解答者」? ぱっと聞きだとクイズ番組とかに出ているさかしらな人たちをちょっと揶揄しているような印象を持ったのだけど、どういう意図で置かれたフレーズなのかよくわからない。謎が余計に素敵な1フレーズである。
2曲目:さよならバイスタンダー
涙なら冷蔵庫に置いてきたはずだ
これも予想もしないワードチョイス。でも、穂村弘の短歌をちょっと思い出しますね。
才能は途中で生まれない
なぜか最初から決まってる
こんな前向きな曲の中に、突然シビアで逃げ道ない警句が出てくることありますか? 泣きそうなるわ。
この道行きの最後が
天国かそこらじゃあないとしても
天国か「そこら」ってところが個人的にはとてもすごく聞こえる。「そこら」がつくことで天国が軽い場所になって、その軽さが「天国」に行けなくてもいいやって人の勇気になるんですよね。
3曲目:こんにちはニューワールド
面白い曲だと思うけど、この曲にはあんまり1フレーズ単位で「目が覚める!!👀」となるものはあまりないかも。(あるだろ!というかたはLINEかなにかで教えてください)
4曲目:無敵
あまりものは左側へ
よけられてグラウンドの隅へ
具体的に何をどうしているのかははっきり言われているのだけど、どういうときのなんの行為なのかも、それが詩の言葉としてどういう含意があるのかもまったくわからない。……けど、不思議とフレーズとしてかっこよくて、聞いていると意味もなく机の上のいらないものを左側に寄せてみたくなりますね。
しかもこれが歌いだしだから、……「フレーズパワー」に圧倒的自信を持っていることがうかがえる。
5曲目:名も無い小さい花
訳のわからない影におびえて眠る日々を
図書館に返しに行こう
「図書館に返しに行こう」は発明じゃないですか。心にのしかかっている不安をなんとなく返せていない本にたとえて、それが自分のちっちゃな行動でかき消すことのできるなんでもないもの、本来的に自分に属しているわけではないものだって伝えてくれる。
人生で出会う危機のうちのいくつかの本質を言い当てているし、シンプルに聞くだけでカウンセリングの効果がある。
6曲目:レディ・エレクトリック
この曲にはとくにないかも。
7曲目:私は誰だ
この曲にもないかも。目が覚めかけるのも*2あるのだけど、甘い基準だとこれもこれもとなるのでシビアに。
8曲目:tonight
これにもない。
9曲目:ポストに声を投げ入れて
水面にピカピカ 太陽の子供たち
幼い言葉づかいなのに比喩が的確過ぎるためめちゃくちゃ洗練されて聞こえる。
冒険は君とはじめてをつなぐ
完璧な無生物主語。いくらでもいろんなふうに言えちゃう内容をこういうふうにフレージングするのって神業です。
10曲目:バスガール
これバスガイドさんの仕事を歌いながら、差しはさまれるYUKIのいたいけでLOVEな世界観がよくわからない良いところに連れていってくれるとても面白い曲なのですが、
左手に見えますのは
恋人を待つあの娘です
右手に見えますのは
あなたの新しい物語
クライマックスのこのフレーズ。「恋」が相対化される余地があって、至上主義的じゃない曲も多いのがYUKIの好きなところである。
11曲目:2人だけの世界
これはいい曲なのですが、1フレーズで目が覚めるのは、……ない!
12曲目:聞き間違い
すれ違う人の傘 ぶつかる度に
跳ねる大都会の魚
これは……。歌詞全体の流れ的にはちょっとブルーなことを言うターンなのだけど、「傘がぶつかるたびに跳ねる魚」のイメージが強烈すぎてちょっとほんわかしていないですか…?
全体のバランスをとるならば「傘がぶつかる」くらいにしておいてよかったのに、ポエジーが爆発したせいで変わったことになる、かなりYUKI感のある1節だと思う。
13曲目:トワイライト
有言実行のタンバリン 鳴らせ
「有言実行」と「タンバリン」の取り合わせ、……😭😭😭*3
集計
……結局、13曲の中で11個「目が覚めるポイント」がありました。今回のサンプルでは、YUKIの曲には目が覚めるような日本語のフレーズが平均0.85個ほどあるということになった。
タイトルよりは少なくなってしまったのですが、まあ1と言ってもいいのではないでしょうか。