きまぐれでApple Musicを解約

 

 タイトルは嘘というか強がりで、ちょっとした手続き上のミスがもとでApple Musicが解約という運びになった。これのときからずっと加入していた居心地のいい場所で、ただ好きな音楽に囲まれ、好きな音楽の再生回数が記録されて積み重なっていき、人生には、遅くてもしっかりとした足取りの、わずかずつの進歩だけがあり後退などはない、と思わせてくれた居心地のいい場所を離れることになる。

 

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 サブスクサービスはほかにも星の数ほどあるので、物理的に大きく困ることはないのだが、やっぱりちょっと失って惜しいなと思うのはこれまでため込んできたライブラリだ。

 

 ただ、ライブラリを捨てて身軽になり、新しいものにフラットに心を開いたり逆に身に慣れ親しんでいたものだけのなかにこもる、というのも生活の移行期に起きる貴重な出来事であり、いまはそれを楽しみたい。

 

 そんな日々のなかでふと耳にとまったのが、The Walkmenのこういった感じの曲だ。「たとえなにも覚えていなくても、知らなくても、お前の居場所はここだろ?」という感じのなれなれしいエモがあり、はじめて聞いたときから非常に印象に残っていた。

 出している感覚に対してのまっすぐさ。僕にこれをちょっとでも鼻につくとか、いやらしく感じるとかしてしまえば印象は変わってしまいそう、というくらいのナイーブさがある曲だが、いまのところは素直に浸って楽しんでいられる。

 

 再生履歴や、これまで学習させた僕の趣味に合う音楽リスト、……ではないところから探して曲を聞くようになったため、思いがけず古い、昔好きで、いまももちろん好きだけどとくに聞き返してはいなかった曲を聞く機会が増えた。

 

 Passion Pitには思い出がある。上京したてのころ、背伸びをしながらいろいろな趣味を試していたころに好きになった曲で、はじめて、そんなに欲しいわけではないが買っておいてもいいかもな、と思って買ったアルバムCDだった。

 渋谷のタワーレコードでCDを買うというのはそのころの僕にとって実際的というよりは、自分がこういうふうにして生きていきたい生きかたとつながるための象徴的な行為だった。見せびらかすようにタワーレコードの黄色い袋で片手を埋めて、当時参加していた意識高めのサークルの会合に行った。他校のめちゃくちゃおしゃれな先輩(なぜか僕を気に入ってくれていた)が僕に目をとめて、袋のなかを覗きこんだ。「え? ○○(僕の名前)くん音楽聞くの? 俺もめっちゃ聞くんだよね? なに買ったの? 見せて。……へえ~、Passion Pitね、……なるほどね」

 

 その「なるほどね」が、ポジティブ・ネガティブどちらの意味だったのかをその日ずっと引きずって考えていた。Passion Pitの「Gossamer」というアルバムはセンスがいいと目をかけている後輩が会合の前に買っているCDとして、期待に応えられるようなものだったのだろうか? ……いまでも答えは出ないままだ。

 

 いまでは多少自分の好きなものに、他人から評価されるのを恐れない程度のささやかな「好き」という自信があり、そういう自信を持って暮らす生活を愛しているが、あれくらいナイーブだったころもそれはそれで目にするものや耳にするものに真剣に接していたので、良かった時期だったな、と思う。