「クリア・チャンネル社のメモ」にリストアップされた曲を聞く

 

 みなさんは「クリア・チャンネル社のメモ」という聖遺物を知っていますか? 

 

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の後、全米で最多のラジオ局を所有するクリア・チャンネル・コミュニケーションズ社(現アイハートメディア社)は、事件の直後にオンエアするには「歌詞的に問題がある」と番組ディレクターが感じた曲のリストを含む内部メモを回覧した。

そのリストはオンエアしないように要求するものではなく、むしろ「オンエアしたくないと思われる曲」の提案だった。リストはアイハートメディア社の傘下ではない独立系ニュースレターのHits Daily Doubleによって公にされた。スノープスはこの件の調査を行い、リストはラジオ局への提案として実在するものであるが、問題の曲を全面禁止にしたものではないと結論付けた。発表された当時、まとめられたリストはメディアの注目の的となった。

 

 日本でも3.11のあとはドラマや映画の津波のシーンが差しかわったり、サザンの「Tsunami」が流せない曲になったりということもあったけれど、アメリカでもやっぱりそういうことはあったんだなあ…、と思い、最近知った事象のなかではトップクラスの興味深さだった。

 

 そして、禁止になっている個々の曲もけっこう面白い。

 

 たとえば、この曲のような、ダークでほぼ「呪い」みたいな感じの歌詞を持ち、タイトルもストレートなものが「ちょっと流すのを控えよう…」になるのは分かるのだが。

 

Of our elaborate plans, the end
Of everything that stands, the end
No safety or surprise, the end
I’ll never look into your eyes again

 (序盤の歌詞とか、見る目線によってはほぼ犯行声明である)

 

 The Beatlesの「A Day In The Life」のように、歌詞やタイトルそのものは一見して大丈夫なのでは……? みたいなものも数多くリストアップされている。

 やっぱり、「人生のなんでもないある日(に突然…)」みたいな含みのあるタイトルがいけなかったのだろうか。

 

 The Beatlesではほかに「Lucy in the Sky with a Diamonds」「Ticket to Ride」「Ob-La-Di, Ob-La-Da」がオンエア自粛を要請されている。どの曲も、9.11ののちにそういう扱いをされたという文脈をプラスすると、そのコンビネーションでかなり文学的に見えてくる。

 

 ほかにはこういった曲などが含まれている。「Clear Channel memorandum」などでYouTubeSpotifyを検索すれば、プレイリストの形で聞くこともできるだろう。

 

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 ちなみに、一番笑ったのは「Rage Against the Machine」が全曲指定されていたこと。「さすがはレイジアゲインストザマシーンだな……」と「でもぜんぶは雑じゃない? OKなものはさすがにあるでしょ」というふたつの気持ちに同時になった。