ごくふつうの大学生、日野真はある日実家の玄関先で、真の兄日野進と結婚しようとやってきた猫の国玉に出会う。真実の愛をもらえれば、国玉は今の中途半端な姿から晴れて人間になることができるのだ。しかし! 日野進はすでに授かり婚済み。子供もそろそろ生まれる、という身の上だった。失意にくれる国玉。真は国玉を追いかけて、言う。「結婚しよう。俺が幸せにするから」
……という、1話からいきなり結婚する*1ラブコメディ漫画がこのアッチあいさん作「愛しの国玉」であり、非常に夢中になって読んでいた。
かわいくて尊大な、……自分とはちょっと違った存在とバディになる*2、というふうな類型に、セクシュアルな目線を足したような関係性。これが相当個人的な性癖に刺さり、読む途中途中に、――くだりが終わるたびに深呼吸が必要だった。
連載開始は2020年6月、現在単行本2巻が刊行されている。癖のある性格をした隣人が出てきたり、兄との因縁が残っていたり、真と国玉のあいだにもすこしわだかまりがあったりと、ストーリーとしての火種は現時点ではかなり残されている。
……が、大きなドラマは話の節目を作るためのもの、という感じで、基本的には人と猫の中間くらいの国玉と、国玉をかわいがる真を見て楽しむ、非常にローコンテキストな作品である。
昔から人に恋する、人じゃないものが大好きで、でもそういうのは大体悲恋なので、いろいろセオリーとかルール無視してくっついてくれないかな~と妄想してました。
実はこのマンガも最初はぜんぜん恋愛じゃない話で進めてて、2人の恋愛は連載が終わったら個人的にひっそり描いて楽しむ計画を立ててました。
でもふと色々ニュースを見てて、人間いつ死ぬかわからないことに気づき、描きたいものがあるなら今描いちゃったほうがよくないか?となり、とつぜん企画を変えさせてもらいラブにしてしまいました。(1巻 あとがき)
この作品に関しては、個人的なフェチに刺さる……、というところが一番重要な部分を占めていて、あまりこれがどう良いのか、みたいなことについては語れそうにない。
世のなか、良い作品というのはいっぱいあるんだけど、フェチに刺されるのを見つけるのは容易じゃないですよね。人を刺しうる作品はだいたい作者本人にも刺さっているので、こういうふうに、あやうく作者だけが楽しむようのものになってたりする。人間いつ死ぬかわからないことに気づき、企画を変えてラブにしてもらって本当に助かった。