子供のころから公務員になるのが夢。公務員の守護天使がついていて、大人になってからは議員の口利きで晴れて公務員になり特権を享受している主人公、ケッコ。しかし、国がついに非効率な行政組織の改革に乗り出す。
早期退職or北極に転勤!という二者択一を突きつけられるが、ケッコは公務員のポストを守り通すことを選ぶ。
公務員という職にしがみつく男、とうとう北極圏に異動/映画『Viva!公務員!』特別映像 - YouTube
……というのが、2015年のイタリア映画「Viva!公務員」(原題:Quo vado?*1)である。これが非常に質の良いコメディ映画だったので、観てみても損はないですよ。
いい年して両親と同居しているマザコンで、お調子乗りだが憎めない。やや伝統的な価値観を持ち、愛に喜び、ジェラシーに悩む。……イタリア人の国民性をひとつの身にあつめたようなキャラ造形の主人公ケッコは、北極で知り合った科学者と恋に落ち、北欧風の「市民的」な人間に生まれ変わろうと努力する。
このあたりは2010年代の世界を席巻した、「伝統的な価値観」vs「リベラルでポリティカルに正しい価値観」の戦いを下敷きにしたお笑いをやっていて、正直めちゃくちゃ面白かった。
どちらの側にもそれぞれの言い分があり、だから衝突する。そして人間は自分の文化的出自を完全に捨て去ることはどうしても難しいのだけど、だからといって目の前にいる、違うモードで思考し振る舞う人間とまったく相容れることができないのかというと、そういうことはまったくない。……笑いの根底にはヒューマニスト風な楽観と真摯さがあって、俗悪なだけになってしまいそうな題材を洗練された創作物に変えている。お見事わね!
個人的に一番笑ったギャグはここ。北極に置き去りにされて、どうにか上司に謝って帰らせてもらおうと電話をかけるとき、ノルウェーの国旗が掛けられたちっちゃな四阿みたいなところのそばを通るのだけど、ここで上司は意地悪をして電話を取らないんですよね。
「くそっ」って感じで四阿にあたると、国旗を固定していたピンかなんかが一部外れて、ノルウェー国旗が時計回りに90度回転して縦になって、十字架みたいになるんですよね。それを見て、ケッコが、国旗の足元にひざまずいて祈る、……というところ、泣きそうなくらい笑った。