俺のニュー・ノーマル

 

 2018年の頭に地元に帰ってからの約二年間、僕には「平日決まった時間にどこかに行かないといけない義務」というものが存在せず、眠りたいときに眠り、時間を気にせずに飲み、なにかをしたくなったらなにかをし、なにもしたくなかったらなにもしない生活を送っていた。行動可能性は金銭的には大きく制約されていたが、その制約のもとであればどこまでも自由であった。

 

 が、状況というのは移りかわるもので、こんなダメ人間な僕も定職を得てそろそろふた月が経とうとしている。これまで自由過ぎる生活をしていたせいで、毎朝、自分のコンディションや天候、感染症の流行状況などによらず、決まった時間にある場所に行き、決まった時間までそこにいなければいけないというのはちょっとしたストレスだった。

 

仕事辞めたいな……。

 

 落ち着けよ。ひとつ大きな制約を受け入れて、それと交換条件みたいにしてそのもとで最大限の自由を、行動可能性を模索するのは昔からの生存戦略であり、得意技でもあるだろ、俺?

 

そうか。人生とおなじだったな。我々は「生きる」という非常に厳しい制約下に置かれているが、同時に、生きてさえいる間は原則的になにをやってもいいんだ。

 

 ゴールデンウィーク明けごろから試行錯誤をはじめ、やっと、僕なりの新しい生活様式(ニュー・ノーマル)を確立できたように思う。それが、こちらだ。

 

 この生活デッキを組むにあたってのコンセプトを、優先順位が高い順に以下に示した。

 

・所定の時間に会社にいる

・眠りたいときに眠る

・眠れない時間には眠くならないようにする

・眠っていて気持ちいい時間帯(眠りのゴールデンタイム)には必ず眠る

 

 まず目につくのは睡眠1と睡眠2というふたつの睡眠が存在するところだろう。こういうふうに、一日に二度、まとまった睡眠をとることをバイモーダル睡眠(二相睡眠)と呼ぶらしく、僕はけっこう昔からこのバイモーダル睡眠を得意とするバイモーダルスイマーだった。

 

 バイモーダル睡眠には、一日に二度睡眠をとれて一石二鳥という素晴らしい利点がある。しかもこの睡眠1と睡眠2、じつは眠り味にけっこうな差があるのである。睡眠の質を正確に表す日本語はないので、すこし比喩的な、文学的な表現になってしまうのだが、睡眠1はいわば地上の睡眠、血を肉を持つ死すべき定めのものとしての睡眠であり、睡眠2というのは、永遠の層のもとにとらえられた魂の睡眠、エーテルの世界の睡眠のような感じがするのである。

 

睡眠1 = 21時~0時。地上の睡眠。いちばん眠い時間帯に眠れる。寝つきが良く、すっきりと目覚められる。身体の疲労が回復した実感がする。現実に関係した夢を見ることが多い。

 

睡眠2 = 3時~7時。エーテルの睡眠。気持ちよくトべるような眠り。寝つきが悪く、寝起きも悪い。魂のステージが上がる感覚がする。空想の要素が強い夢を見ることが多い。

 ふたつの睡眠を対比して図式化するとこのようになる。(すくなくとも僕が)生きていくためにはどちらも大事な睡眠であり、それを両方合い盛りのようにして毎日とることができるのが、このニュー・ノーマルのもっとも素晴らしいところだ。