森博嗣さんというミステリィ*1作家がいて、僕は自分の中二病をまるまるこの作家にささげていた。
中学のころの僕にとって、7は孤独な数字だったし、人間のことをエラーが多いのになぜか止まらずに走り続けるスクリプトだと思っていた。瀬在丸紅子さんの幼少期のエピソードを真似して、100点ばっかり取っちゃわないようにどのテストでもあえて1問か2問ずつ間違えたりしていたりもした。
衒学的で理屈っぽい、ひとを煙に巻いてそれを得意がるでもなく無表情を貫くような、どこかビジネスライクな小説を書くのだけど、詩的になることを恥ずかしがらない大胆さというものも同時に持ち合わせているようだった。そんな森博嗣さんの小説のタイトルから、いまでも思い出せるくらい好きだったものを4つ並べてみたい。
4位『封印再度 Who Inside』
森博嗣さんは自分の小説に英題と和題をひとつずつつける。直訳になっていることもあるけれど、おなじ物語の内容を表すような、すこしずれたふたつになっていることも多い。そのふたつの題を使ったちょっとした離れ技がこちら。英語と日本語、どちらのタイトルも、作品の中心をなす密室トリックを違った切り口から表すものになっている。
いま見るとややかっこわるくて笑っちゃうんだけど、当時はこういうギミックがまじでかっこよくて心酔していた。
3位『今夜はパラシュート博物館へ The Last Dive to Parachute Museum』
パラシュート博物館という空想の言葉がきれいすぎて、どんな話なのか気になってしかたがない、……とページをめくるんだけど、この本は短篇集で、これは短篇集全体としてのタイトルで、このタイトルを冠したお話は中には収録されていない。
こんなきれいなタイトルがあるのにそれが表す物語がないのはずるいと、子供のころからずっと思っていた。これまでわりと長いあいだ物語を作る練習をしていたのは、ひとえに、このタイトルにうってつけのぴったりなお話を作るためなのでした。
2位『黒猫の三角 Delta in the Darkness』
五月五日、十二月十二日、とかのぞろ目の日に殺人事件が起きる。その謎を解いていくお話で、作中にはデルタと呼ばれる黒猫が登場する。デルタと打ち込んで変換してみると「Δ」こういう三角形の文字が出てくる。なるほど、そういう仕掛けのタイトルね。すべて理解し、子供のころの僕は満足していた。
今年の前期二番目にやばいなって思ったのは『黒猫の三角』がクロネッカーのデルタをもじったタイトルだってことに今さら気づいたことです。だからゾロ目の日に人が死ぬのか…。
— soudai (@kageboushi99m2) 2014年7月18日
おおきくなって、線形代数を勉強しているときに「クロネッカーのデルタ」というものを知って……、いちばん最初にこの小説のことを思い出した。「だからぞろ目の日に殺されてたのか……」と気づいた瞬間ちょっと笑ってしまった。
1位『フラッタ・リンツ・ライフ Flutter into Life』
遺伝子操作を施されて永遠に子供のままの子供たちが、戦闘機に乗って戦うリリカルでドリーミィでストイックなシリーズ、「スカイ・クロラ」のなかの一作。このシリーズすべてに言えることなのだけど、慣習とはすこしずらした音訳が日本語のタイトルになんとも言えない効果を与えている。英語のタイトルも詩的で素敵ですね。
お話の内容もとても好きで、人生の節目節目にシリーズでまとめて読み返すなどしている。