――毛深い象。街を歩きまわるのね。
クオンという韓国専門の出版社があり、そこから「新しい韓国の文学」というシリーズが出ている。韓国の現代文学というのは海外文学ファンの間でもそこまでメジャーなジャンルではなかったと思うが、この大量供給に後押しされてか最近しずかに存在感を増してきている。
このシリーズは表紙もそれぞれかなりかっこいい。
「書籍情報」の一覧 | CUON | 韓国語圏の知を日本語圏でも
そのなかから今回はたまたまこういう本を読んだ。連作短編であり、章題は以下のようになっている。
キャンピングカーに乗ってウランバートルまで
都市は何によってできているのか
キャンピングカーに乗ってウランバートルまで 2
都市は何によってできているのか 2
論理について――僕らは走る 奇妙な国へ 7
妻の話――僕らは走る 奇妙な国へ 4
没書
分裂
村上春樹と小沢健二を足して二で割ったようなタイトルと章題だな、と思いながら読みはじめたら、中身の文体もわりとそんな感じだった。タイトルから小説の内容を予測するのは難しく、基本的には当たらないのだけど、タイトルから小説の文体はわりと予測できる、というような体感があります。
僕は、父がアメリカではなく監獄にいるのだろうと考えた。アメリカよりも監獄の方が、なんとなく似合うような気がしたのだ。僕は自分のでっち上げた嘘を、それとなく自慢した。無期懲役だってさ。僕は重大な秘密を打ち明けるがごとく、友達に話し始めた。それなのに、はじめて会った父はスパイでも殺人犯でも政治犯でもなく、遊牧民を夢見る哀れな男だった。
内省的か描写的かと言えば内省的、詩的か散文的かと言えば散文的、理論的か感覚的かと言えば感覚的な文章。情熱家ではなくアイロニストであり、登場人物を見る目線はかなりクール。お話はどれもテーマ性が薄めで、描かれているシチュエーションはそれぞれとても面白い。たとえば「分裂」では、お店で絡まれている女性を諸事情で助けられなかった逃亡者かつ物書きの主人公が、身を寄せた友人宅でその女性に再会して「次は女の子を助けるヒーローが登場する話を書いてね!」と煽られる、というシチュエーションが描かれていて、そんな感じの物語のシンプルな面白さが、ひょっとするとつかみどころなく感じるかもしれない文体をリードしていて、それがとても良かった。