ちょっとまだ根に持っている

 

 大学1年のころ、友達がいなかったのでしかたなく代わりに自分のことを「友達がいなくても平気だし、それはそれでひとりで楽しめるタイプの自立した人間」だと思い込むことにした。大学では死ぬほど浮いていたが、僕みたいなタイプの人間にとってはこういうのでもぜんぜん平気なのだと言い聞かせながらなんとか通っていた。

 

 痛々しいやつだ、と映るかもしれないが、人がだれかに痛々しさを感じるとき、その相手は痛々しく見えるかもしれないけど、それはその人なりにできる限りの方法で自分を守ろうと戦っているだけなのである。できれば温かい目で見守っていただけるとありがたい。

 

 そんなときに学祭があった。行くメリットはとくになにもないのだけど、でも、「友達がいなくても平気で楽しめるタイプの自立した人間」という自己像を確立するために、とりあえずひとりで学祭を回ってみることにした。キャンパスはいたるところ人でいっぱいになっていて、普段とは違い、だれかが一人でいることが目立つような感じではなかった。いがいと楽しいかもしれないな、と思った。出店でご飯を買ったり、文科系サークルの展示とか研究室のポスター発表とか、そういう地味スポットを見て回っていた。

 

 キャンパスプラザという、文化祭の喧騒の中心からすこし離れた建物があって、そこでも雑居ビル的に、ちょっと変わったサークルたちがひしめき合って自分たちの出し物を出していた。詳しい来歴はよくわからないが、名前の雰囲気からなんとなく、悪ふざけが好きなサブカル系の学生たちがつくった悪ふざけ出展だろう、と思うようなブースがあって、そこでは箱庭を使った心理検査の真似事のようなものが行われていた。

 

 段ボールでできた箱庭があって、そこには小さな森と草原と川の絵が描かれている。手元には馬とか羊とかキリンとかのちいさなビニル人形があって、それを箱庭のなかに好きなように並べてくださいと言われる。「いくつ使ってもいいですし、どこにおいてもいいですよ。完全な自由です」その配置によって、僕の精神の状態がわかるのだという。

 

 僕は自立した、メンタルにとくに問題のない*1人間なので、まあたいしたことは起こらないだろうけど、せっかく客引きされたし、暇つぶしにやってみますか!みたいな雰囲気を頑張って出しながらそのブースに並んだ。痛々しいと思われるかもしれないが僕は僕で自分を守るために必死なのである。人形を渡されて、自分なりに、できればちょっと面白い箱庭を作りたいな、と思いながら、箱庭を作った。

 

 たしか、オオカミが一匹いて、その周りをキリンが大量に取り囲んでいて、川を挟んで離れたところにブタが一匹いる、みたいなニュアンスの庭を作ったような気がする。

 

 箱庭サークルの悪ふざけサブカル大学生たちは僕の庭を見て「……うーむ。これは、……これは非常に難しいですね。うーん。……これは、うーん。……精神病ですね」と言った。

 

 そのときのことをまだ覚えている。きわどいがぎりぎり面白かったジョークだったし、その場でも普通に笑ってしまった。ただ僕は自分のことをみじめだと思いながら学祭から帰った。学祭にはあまり、いい思い出がない。

*1:友達はいない