『日本で働く―外国人労働者の視点から』

 

図書出版松籟社ホームページ :: 日本で働く―外国人労働者の視点から

 実際、日本国内の外国籍の人が、いったいどのような方法や資格でやってきたのか、なぜ日本に来たのか、どこに、どうやって、どれくらいのスパンで暮らしているのか、どのような集団に分けられるのか、集団ごと日本での待遇に差はあるのか、など、さまざまなことをそもそも知らないな~ということはちょっと思っていたので、それっぽいことが書いていそうな本を探して読んでみました。

 結論としてはとても面白かったので、おなじような興味がある人は読んで損はないと思います!

 

 現代日本を支える外国人労働者について、私たちはどれだけ知っているだろうか。彼/彼女たちは、どんな事情で故郷を離れ、どのように日本で生きているのだろうか。そして、彼/彼女たちの目に縮小する現代日本はどのように映っているのだろうか。 タイ、ベトナム、フィリピン、ブラジル、メキシコ、アフリカから来る技能実習生や日系人たちをとりあげ、統計、聞き取り、支援活動の経験から「向う側」の視点にせまり、日本で働く外国人労働者と私たちの関係を見つめなおす。

 制度や統計から状況を概観するハードな章だったり、特定のケースについて当事者の聞き取りをベースに構成したソフトな章があったりと、バリエーションのあるアプローチ*1で「外国人労働者」について知ることができる。リベラルな観点から問題意識は持ちながらも、基本的にはアカデミックな客観的なスタイルで記されている。

 一読しただけじゃわからないところ、まだフォーカスの当たっていないところもたくさんあると思うのですが、読んでなんとなくの見取り図と、つぎに補うためにこの辺を探して読めばいいのかな、というあたりくらいはつけられました。よい読書だった。

 

 ここからは自分の意見なのですが、土地所有とか、犯罪とか、保険とか、現状選挙の場で意見が多く出ている各個の問題はそんなに優先順位が高くなくて、「現状日本の産業に外国からの労働力は不可欠だが、外国籍の人はさまざまな面で差別的な待遇に置かれている」という大きな一塊の問題の枝葉として理解しないといけない*2と思う。

 

 理想的に言えば、産業に必要不可欠な労働者に対して、永住権・参政権だったり日本国内でのキャリアへのアクセス・支援などまで含めたフルパッケージの差別是正制度をつくるべきで、そうでないのなら労働者の受け入れを止めていま国内にいる人でなんとかすべきですが、いまのところ、ほかの多くの現代日本の問題と同様、政権は前段と後段どっちの問題もなんとなくごまかしてやっていいところの両どりをしていると思う。ただ、いずれ爆発する爆弾を放置しているだけ、ともいう。

 特効薬とかはないので、辛抱強く議論の俎上にあげて、20年くらいかけて方向性を決めないといけない*3と思いますが、現状は左派右派どちらも、自分が見たいところだけを見て、理屈の上での空中戦をしている段階にとどまっているのかなと。

 

 あと、実際に外国人居住者の声がぜんぜん聞けないのもつらいところではある。その辺で見かけるんですが、ほとんど話したこととかないですからね。使うお店とかもかぶらないし…。インターネットにもいないし…。

*1:けっこう変わった章としては、では今外国人がやる農業の季節労働は昔は日本の「誰」がやっていたのか? というテーマで、この辺の「労働問題」という枠組みで国籍を問わず外国人問題を扱うのは、政治運動としてのポテンシャルはあるよな~と思いました。

*2:最大限誇張しすぎた言い方をするのであれば、この問題にリベラルとか排外主義者とかいなくて、お手頃価格のコンビニ弁当を食べてる我々日本人はすでになべてアウシュヴィッツの隣に住んでいるのである。

*3:これどっちになるかまだ全然わからなくないですか? まったく趨勢が見えない。