星1レビューもわかる~「TATTOO<刺青>あり」~

 

梅川のことを思い出すとき、何故私が撃てなかったのかと思わない日は無い。あれ以降銀行に限らず群衆の中にあっては人の挙動を注視する癖がついた。この映画は事件から3年後となっているが、何を思って制作したのか。映画の中身は事件の詳細に触れてはいないがご遺族、関係者が観たらどう思うか考えなかったのか。要はこの高橋伴明なる者が女優の関根恵子との公私混同を愉しんでいるだけのように思える。これを娯楽作品として許容しているかのような論評が目立つが決して納得できない。

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 たんに映画だけ見たときはとても面白いと思ったが、そのあと素材となった人物や事件について調べてみると、ちょっと面白さは割り引いて感じたほうがいいかなという気分になった。

 

大阪で実際に起きた三菱銀行たてこもり事件を、ピンク映画界で活躍してきた高橋伴明が監督し一般映画デビュー。破滅的にしか生きられない主人公を宇崎竜童が熱演し、高い評価を得た。少年院あがりの明夫は「30歳までに何かドでかいことをしてやる」と決意して、胸に刺青を入れ、キャバレーのボーイとなる。店の売れっ子ホステス・三千代を強引に口説くがやがて逃げられ、明夫は31歳を目前に銀行強盗を計画する・・・。

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 という映画。「有害な男性性」を全編にわたって見る、というような体験になるが、露悪的でも弁解口調でもなく、美化しすぎでも教育的でもなく、ポルノグラフィーでもなく差別的でもない。素材をとてもシンプルに調理していて、映像作品としてや物語として面白く作ることに力がそそがれた作品のように見えた。

 

 見終わったあと元ネタとなった事件を調べてみた。すると、作中で主人公の人となりを表す見事な描写だなと思った部分が、けっこう実際にあった「犯人の印象的な言動」の、まあ安易ともとれる借用だったことがわかって*1、ちょっとなあと思うところもある。

 上に掲げた星1レビューみたいな批判を受けてたつには、演出や演技の卓越性だけでなく、事実以上に創作して、独自解釈や手の加えを主張できるほうがいいのではという気がする。素材を盛り上げているだけでは、悪趣味とまではただちにいかなくても、「淫しているだけだろ」みたいな感じにはなっちゃいませんかね……。

 

 いちばん好きだったのは三千代が昔の男と再会するシーン。話が終わったあと男が煙草をくわえたときは「えー!! どこまで嘘だったの!!!」となって貧血になりました。*2

*1:カップラーメンには栄養がない」のところとか。

*2:あと作中にちょっと映る家電量販店のテレビの値段がいまとそんなに変わらなくて「経済成長……」という気持ちになった。