デートの専門家が撮ったかもしれない~「オリ・マキの人生で最も幸せな日」~

 

 というタイトルの映画を観ていました。翻訳サイトによると、原題は「Hymyilevä mies」で「笑顔の男」という意味になるそうです。

 

 メインの登場人物は3人。フィンランド人のボクサー「オリ」は世界タイトルマッチへの挑戦を控え、減量に励んでいる。その大一番をフィンランド開催まで持ってきたプロモーター的な人物が「エリス」で、彼自身も元ボクサー。1951年にヨーロッパタイトルを獲得した自身の「最盛期」のことを誇りに思っている。

 

 オリの恋人が「ライヤ」で、ちょっと内気なオリにとっては、精神面で彼を支える存在となっている。そんな3人が、メディアやお偉いさんとの付き合いにナーバスになったり、減量に失敗したり、プロモート事業にお金を使いこみ過ぎて家庭がピンチになったり、……いろいろすれ違い、上手くいかないながらも、フィンランドで行われる大一番に向かって時は進んでいくのであった。といった感じのお話である。

 

 雰囲気は多少不穏だけど、どちらかというとハッピー寄りのかわいい映画である。見るべきなのは映像。白黒なのでちょっと身構えるけど、意図がすぐにはわからない謎めいたカットとか、集中してみていないと意味がわからない演出、といったのもほとんどなく、かなり素直にさっくり楽しめる作品となっている。

 

 一応スポーツマンのナイーブな内面を描いたり、興行としてのスポーツにちょっと疑いをつけたり、といったテーマはあるのだけど、あまり気にせず、話の流れに沿って綺麗な映像をながめている、適当に90分時間が余ったからなんとなくかけてみる、パーティーのBGVにする、くらいの態度でも十分OKな映画なのではないでしょうか。デートムービーにはとてもちょうどいいと思う。

 

 とくによかったのが雨の中家を追い出されてお偉いさんのところにお願いをしに行くシーン。子供がトイレを借りるひとコマも良い。

 あそこだけでプロモーターのエリスは「悪役」ではなくひとりの人間になっていて、そのままラストの写真撮影をオリに促されるシーンのキレにもつながってる。なので、この映画はちょっとポリフォニックなスタイルにもなっているんですよね。エリスのもつ声も作品に織り込む必要、ないっちゃない気もするんだけどそれでも入れるのは美意識を感じて僕は好きです。

 

 調べてみると、ラストのシーンに出てくるのはこの映画の元ネタとなった夫妻本人らしい。それ聞いてちょっと「やってんなあ~」と思った。

 まあ芸術作品としては諸説あるとは思うけど、デートムービーとしてはこの上ない演出である。ひょっとしたら映画だけでなくデートについても詳しい人が撮った映画なのかもしれないですね。