このなかに刺さるひときっといるはず「東京団地ミステリー」

 

 インターネットの読み物が好きな人のために、まだ広くは知られていないインターネットのよい読み物を紹介していきたい。「東京団地ミステリー」は2014年にマイナビニュースで連載された*1ひとつづきのコラムである。こういうのに興味があるひと、きっとここを見ているひとなんかにはちょっといるんじゃないですか?

 

 まずは「神様はどけられない」というシズル感満点の詩的タイトルがつけられた第一回を読んでみましょう。題材となるのは「都営白髭東アパート」、とある理由で長さが1km以上あるひとつづきの団地だ。

 

この都営白鬚東アパートにはどういう「ままならなさ」があるのか? 都市の防災という住宅のデザイン論理とは全く異なる機能のために、長さ1kmを越える壁という形になった、というだけでも充分「ままならない」といえる。(中略)しかし、ぼくが今回ここで紹介したい「ままならなさ」はもっと別のものだ。

 都市を作るということ、建物を建てるということを「ままならないこと」だと言い表して、……コラムでは東京の団地の目に見える姿から目に見えない背景の事情を探っていく。

 

さきほど『デジモンアドベンチャー』の舞台がここ光が丘だと書いた。その物語中、実に意味深なシーンがある。まさにここを「滑走路」のように使うモンスターが登場するのだ。

 

まわりの街並みにあえて合わせず、いっしょうけんめい南を向こうとする団地は、まるでひまわりのようだと思う。太陽を受けるためにがんばる植物のようだ。

 

知り合った友人がこの団地出身で、聞かせてもらった子どもの頃の話が非常に興味深かった。操車場の上にいわば人工的に「大地」をつくってその上に団地が全部で4棟建っているのだが、学校もそこにあったのだという。

天空の城ラピュタ」でシータは「土から離れては生きられないのよ」と言ったが、ムスカばりにこう返そうではないか。「団地は滅びぬ。何度でもよみがえるさ。団地こそ人類の夢だからだ」!

 

 人間が住むということにはいろいろなしがらみがあって、だからこそ多階層的なストーリーがある。それが、若干古い気もするけれどそれはそれで味のあるやわらかな文体で、詩的に語られ、カタルシスを伴う形の落ちがつけられている。

 都市工学かエッセイ、どっちかが好きな人はたのしく読めると思うし、両方好きな人にとっては1+1以上にうれしい連載コラムなのではないでしょうか。

 

 関係ない話ではあるが、連載第1回で取り上げられていた「都営白髭東アパート」にじつはちょっと前行っていたことに、このコラムを読みかえしてやっと気づいた。そういう長く伸びる団地があることはこのコラムで相当昔に知っていたはずなのだけど、偶然散歩道でそばを通っただけではそれとはわからなかった。

 

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 でも、「なんだこれ!」と思って写真は撮っていた。それくらい異様な建物だったということのなのでしょう。点と点が思いがけずつながった、最近のレア経験であり、良かった。

*1:なのでマイナビニュース特有のちょっとしたサイトの読みづらさはある。