ヨーロッパで一番強いクラブを決める大会「チャンピオンズリーグ」のこの試合を見ていた。ビジャレアル対マンチェスター・ユナイテッドと言えば、今年の5月にはヨーロッパリーグ*1の決勝で対決した、因縁のある組み合わせである。審判団の通信機器トラブルにより、試合はすこし焦らされて、波乱を予感しながら始まることとなった。
本来中立の立場ではあるが、まあどうしてもビジャレアルのほうに肩入れして見てしまう。僕は大金持ちのオーナーが運営している、高給取りばっかりがいるチームがそれゆえに機能不全で苦しんでいるところを見るのが大好きなのである。
実際今回もユナイテッドは重病人のような試合の入りを見せた。前線には左からC・ロナウド、マルシャル、サンチョを起用。守備時にはトップ下にいるファン・デ・ベークがセンターに下がって、ロナウドが下がらなくていいようにフレッジが左サイドを守る、……という一応理にはかなっている可変システムを取っていた。
が、……やっぱり机上論だったみたいで実際にはその左サイドからビジャレアルに展開を許していた。30分くらいからはロナウド1トップ、左右にマルシャルとサンチョ、守備時にはこのふたりにサイドを守ってもらって、ファン・デ・ベークが1列目に出てロナウドの隣を守るという、しかたないがふつうの守り方に戻っていた。
しかし、その守りかたもいまいち機能しない。ユナイテッドから見てサイドハーフの前(緑の部分)にどうアタックに行くのかが共有されておらず、ビジャレアルはここからひとりずつ丁寧にずらしていくビルドアップで、再現性を持ってゴールチャンスを作っていた。「このままいけば90分で1点くらいとって勝てそうだ」という気がしていたと思う。僕にはしていた。
大金持ちのオーナーが運営している、高給取りばっかりがいるチームがそれゆえに機能不全で苦しんで、あんまりお金持ちではないけど堅実に戦えるチームに負け、「これがサッカーだ…」と悔しがっている様子が見れる、と期待に胸を躍らせた。個人的にそういう展開がこの上なく好きなのである。
しかし、58分くらいのトリゲロスのシュートがデ・ヘアのスーパーセーブに阻まれたあたりから雲行きがおかしくなってくる。
やっぱりまずいのは66分に出てきたこの男、……もう正直、名前を言ってはいけないのではないかという気までしてきている。スペースを見つけ、味方を探し、ボールを受け、相手を動かしてからパスを出す、……それを何度か繰り返すうちにチーム全体にリザレクションの魔法がかかる。
ふたつのゴールには直接関与してはいないのだが、名前を言ってはいけないこのお方が魔法の力で間接的に生み出したゴールだと言って間違いはないだろう。個人的に一番びびったのは、後半アディショナルタイムに「フレッジのすぐそばでひとつ飛ばしたパスを受けようとしたけど出なかったので、すぐにポジションを取り直してフレッジからパスを受け、すぐさまの判断で裏を走るラッシュフォードに針糸のパスを通した」シーン。
スカッとする試合が見れるかと思ったら、結局は魔法使いが魔法をかけるところをただ見せられた、そんな回でした。
*1:こちらもヨーロッパで一番強いクラブを決める大会……、のように聞こえる名前だが、実際ここでなにを決めているのか、ここで優勝したクラブはどういうクラブになのか、といったことはじつはだれもよくわかっていない。