人生で教訓は受け取ってきた~「幸福路のチー」~

 

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 2017年の台湾のアニメーション映画「幸福路のチー」を見た。とてもいい映画だった。

 

 主人公は1975年4月5日生まれの台湾人女性、リン・スーチー。いまはアメリカで暮らしている彼女はある日祖母の訃報を受け取り、故郷である台湾に帰省してくる。そのあとは、それまでの彼女の人生が、帰省中の日々の出来事のなかに差しはさまれて描かれ、その背景には台湾の現代史が置かれている。

 形式だけでいうと、そんなにサプライズはないというか、まあまあある感じのお話なのだけど、そのよくある感じを嫌なところなくやりきっている。

 

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 画はリアルではなく、子供向けアニメみたいな感じ。とくに幼少期のエピソードで、めっちゃこてこてしたアニメ風クラシックBGMを流しつつ古風でファンタジックなアニメーションが流れる場面は、一瞬なんだこれと思ったけれど、幼少期に感じる「世界の広さへの開かれ」「ワクワク」みたいなものの表現としては優れているのかもしれないと思った。

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 やっぱり形式というよりは描かれているテーマがとても面白い作品かもしれない。「こういう話です!」って押しつけがましい感じではない、とても上品なお話なので、どこに重点を置いて感じるはけっこう人によるとは思うのだけど、個人的には地元を離れて、けどいろいろあってそこに戻ってくる高等教育を受けたひとの話というところがアクチュアリティが高かった。

 高等教育を受けたひとあるあるなのだけど、生きていくうえで自然に学んだことと、教育されて学んだことのどちらに重きを置くかのバランスをとるのが難しくて、それが人生のちょっとした煩いになる、ということがあって、それがどちらかというと自然に学んだ教訓に重きを置く形で解決されているのが『幸福路のチー』という作品なのだと思う。

 主人公が故郷に帰り、自分の人生に会ったエピソードを思い返す中で、そこから自分が何を感じてきたのか、その感じてきたことが実は自分の人生にとって大きな意味があるという、つまり、再評価をするお話と言っても、……やや答えありきで引きつけ過ぎかもしれないけれど、外れているにしても大きく外してはいないと思う。

 

 そしてそういうふうに自分に引きつけて観ていたのでちょっと心にしみる描写が多かった。まだ親世代、祖父世代とまあどうしても切りきれない連続性があり、けれど価値観には違いがあり、とはいえ都会のライフスタイルにもなじめていると言い難い高等教育を受けた地方出身者、とかには結構重なって刺さる部分があるお話ではないでしょうか。

 

 とはいえそんなに難しいことを考えなくても、人生というテーマを扱いながら過度に悲観的にはならず、読者の感情をあおるためだけの悪も登場しない上品さがあって、じつはそれを満たすというだけでなかなかレアな、お勧めできる映画でした。