月刊サンデーで連載されていた、「ひとりぼっちの地球侵略」というマンガを読んでいた。主人公の岬一は新高校1年生、入学早々、変わり者で評判になっている大鳥先輩に絡まれるのだけど、なんと彼女は地球を侵略しようとする宇宙人だった。ただの宇宙人ではなく、母星の期待を背負って、たったひとりでの地球侵略任務を課せられた、孤独な侵略宇宙人。……なんやかんやあって、ふたりは手を組んで宇宙人たちと戦うようになる。
孤独を抱えている変わり者と、不本意だけど相手のことをケアしたいと考えるようになる巻きこまれ役、といった構図のボーイミーツガールなお話なのだけど、この「ひとりぼっちの地球侵略」にはいろいろな顔があってなかなかひとことで語るのは難しい。
(この大鳥先輩は、『NHKへようこそ!』の中原岬や『GOTH』の森野夜が刺さるひとは刺さるようなキャラ造形がされている。僕も中原岬や森野夜に刺された古傷があるため、読んでいて疼痛をこらえるのが難しかった)
「ひとりぼっちの地球侵略」は造語の飛び交うかなりハードなSFストーリーでもあるし、特定の2名の関係性に焦点を置いたカップリングの物語でもある。小道具や取り上げるモチーフは不思議の感覚に満ちているし、典型的にはしない肌触りを持ったキャラの設定作りも優れている。
喜ばしい展開のなかにそれとはアンビバレントな影を潜ませるのも得意で、現実の複雑性を描こうという意欲がある。そして最終盤ではハーレクインのような展開にもなる。
とくに単行本3巻くらいまでのエピソードはどれも細部まで非常に面白い。いままでとは雰囲気の違う、なんだか憎めない敵宇宙人が出てくるこのエピソードでは、緊張感のある描写と、ちょっとゆるい描写が重なっていて、なんとも言えない読み味になっている。
絵面だけ見るとドラゴンボールのそんなに重要じゃない戦いの一幕のようであるが、先輩の立場になってみると非常に切実な、逆に戦隊ヒーローに変身している敵宇宙人の立場になってみるとなんだか可哀そうになってくる、……という、複数の意味が折りたたまれた文学的なシーンとなっている。
3巻に出てくる文化祭のお話でのこのひと言も良かった。主人公に思いを寄せるゲストキャラの古賀さんや、この回から新しく登場したレギュラーキャラを絡ませつつ、敵宇宙人を登場させ、同時に先輩をアイドル気質に目覚めさせるなど謎のゆる展開もはさんでバランスを取る。そういう文脈のなかで、「あ、そういう意味ね」となるこの言葉はきれいに効いていた。
すべてのディテールが意味を持ち、有機的に絡み合っていつつ驚きも提供してくれる、奇跡的なエピソードたち。
絵も非常にきれいである。ちょっと柔らかくて幼く見える絵柄は個人的にとても好きだし、個人的な好み以上にそもそもイラストレーションの能力が高く、見ていて飽きない、素敵だなあと思うような絵を描いてくれる。こうやって並べてみると、……表紙買いしたくなるような魅力がありませんか?
こういう、セリフがないところの絵もうまい。作品の世界に浸れるうつくしい3コマだと思う。
美点だけを話題にしたが、よくないところもたくさんある。どちらかというと作者の感性や、それが生み出すディテールの作り込み、独特のデリカシーといったところに際立ったものがある作品なのだけど、中盤に差しかかるあたりから、物語の進行に追われてそういった良い部分まで手が回らなくなっている雰囲気がある。
SF的な仕掛けは、大掛かりではあるが同時に荒唐無稽だし、ディテールの作り込みに対してグランドデザインが雑でなにをどう見せたいお話なのか混乱している。ひとりぼっちの侵略者、といった各種の設定も一見エモーショナルだが、最終的に統一した効果を出せたかというと疑問だし、テキストもそれを読むだけで面白いほど非凡なわけでもない。
とはいえ、最初の3巻は大傑作といえるものだし、のこりもその余韻とキャラや設定への愛で面白く読むことができる。絵柄にときめいたり、中原岬や森野夜が好きだったり、固定カップリングが好きだったり、……その他なんとなくびびっと来るものがあれば、決して損にはならない買い物ではないでしょうか。