周囲の状況とそこに置かれたキャラクターの行動や様態の記述、あるいはそれを接続詞でつないだ2から3の複合的な記述、……という形式でなされる二次創作がインターネット上にけっこうあって、その最小でエッジイな創作形式に見とれていた時期があった。
しかし、形式上の理由から検索で効率よく閲覧できるようなものではなく、また何百回もリツイートされて回ってくるようなものでもないため、なかなか追いかけるのが難しいジャンルである。
しかし例外的に、botとしてその形式の短文が集積されているアカウントがある。このbotがとても詩情にあふれていて、流れてくるたびにはっとして、とても好きだった。このアカウントのpostのなかからいくつか、好きな短文を紹介していきたい。
機嫌のいいときは家に置きっぱなしのギターを弾いてくれる高坂穂乃果 pic.twitter.com/M7fud6jcJb
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2016年5月27日
いまひさびさに見返して思ったけれど、僕これより世界の本質を捉えてきれいな文章を知らないかもしれない。「機嫌のいいとき」「置きっぱなし」「ギター」「くれる」あらゆる要素が、ほとんど悪目立ちしないさらっとした言葉なのに、文章のなかでぴったりと役割があって、書かれていること以上のいろいろな後景が浮かび上がってくる。
これを初めて見たあと、なんども頭のなかでイメージをくりかえしたが、飽きることは本当になかった。そのあとこの内容を膨らませるような形の二次創作ssを書いた。話の都合上、ギターを弾くのは園田海未になったので、原型はなくなってしまったが。
ザ・シンプソンズと「君のためなら死ねる」を足して二で割ったようなアートワークも味わい深くて素敵ですね。
深夜のコンビニで立ち読みして一晩しのごうとしてるにこにー先輩と珈琲一本分だけ会話して何も気付かずにさよならする予備校帰りの西木野
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2014年10月1日
「○○な△△」と「××な□□」、そんなシンプルな対立を構造として中に含むだけの64文字で読むひとを悲しい気分にさせることがどうしたらこんなにできるのだろうか。
これに経緯とできればハッピーな終わりをつけ足したお話を読んでみたいと思うのだけど、どう考えてもいちばん面白いのはこのコンビニのシーンになると思うので、本当にやりがいがなく、ずるい。
美しかったり、切なかったりするだけではなく、
群の数が素数+1じゃないと暴れ出すイカ似の宇宙怪獣ほのかさんをミント味のチョコボールで餌付けしてデビューするアイドル研究部 九人で練習できないので常にひとりは身を隠してる
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2019年8月27日
ダグラス・アダムズの小説のひとチャプターのようにスリリングだったり、
矢澤さんのいちばん好きなところにそれぞれ名前を書くメンバーたち
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2020年10月21日
文脈なしだからこそ成立する鋭さとセンセーションを持っていたり、
ダブルクリックしなくていいところも全部ダブルクリックする矢澤にこ
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2017年5月29日
フリップ芸のひとページのようなあるあるとおかしみ、
星空は着ぐるみ型エイリアンかなにかで本当はかよちんが食べたかったけど背中をさすってくれてる花陽は吐瀉物に髪の毛が混ざってることにすら気付いてくれないやつ
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2020年11月5日
なぜそうなるのかはわからないけれど、この世界ではそうなんだろうって納得してしまうような説得力、
ラリーが続かなくて所要時間の半分くらいは相手にお尻を向けているバドミントンにこまき
— さまざまなアイドル研究部bot (@yzw_assorted) 2015年1月13日
そして、キャラクターの生きる現実を細かいところまで見つめて、それを形にする愛と献身がある。
とても好きなので、周囲の状況とそこに置かれたキャラクターの行動や様態の記述、あるいはそれを接続詞でつないだ2から3の複合的な記述、……という形式でなされる二次創作、をみなさんやってみてくださいね。さようなら。