自らの用いている表現形式の特徴やその限界について、既存の枠組みにとらわれることなく思考し、それを作品という形で現実のものにする。そういう行為を行うものたちを芸術家と呼ぶのならば、愛知県岡崎市で活動する6人組YouTuber、東海オンエアは真の意味での芸術家と言えるだろう。
彼らは日本でも有数の職業YouTuberであり、基本的な仕事は「再生回数を稼ぐ」ことである。そんな東海オンエアが「再生回数0回を目指す」をテーマに作り上げたこちらの動画は、いろいろな面白がりどころがある傑作である。
シンプルにちょっと笑いとして面白い(とくに酢うどんのくだりは何度見ても汚いけど笑ってしまう)ということもあるし、動画内では語られない、これまでの動画とは異なるメタ的な仕掛けがあったりする。
ファンとしては、0回を目指すと本人が公言している動画は、忠義を立てて見たくない…、という気持ちになるのだけれど、まあ面白いので見たほうが良いです。(最初そういう理由で6か月ぐらい放置していたのを見終わったあと後悔した)
東海オンエアはバラエティ企画が魅力的なのは間違いないんだけど、このような、台本ありきのコント動画というのもけっこう好きみたいで、たんに動画を商材としてとらえるのであればべつにあってもなくてもいいような(けれど創意にあふれた)コント動画をいくつも公開している。
こちらはふつうのバラエティ企画に見せかけたコント動画で、こういうのをたまに作ってくれるのがファンとしてはうれしい。
「限定公開動画」というYouTubeの機能を活用し、マルティエンディングを実現させたのがこちらの「この動画にはエンディングが17通りあります」だ。
これはコンセプト先行というか、動画としての面白さはそこまであるわけではないのだけど、逆に、こういう、練りきれてはないんだけど「こんなんやってみたら面白そうだしやってみようぜ」みたいな動画を習作的にぱっと出すことのできるフットワークの軽い精神、そういうのをここまで大きくなっても持ち続けられるのは非常に素晴らしいことだと思う。
「情報量が多すぎる動画」はシンプルにとても良い映像作品だった。われわれが日常のなかで見ている映像のクリシェを大量にちりばめる、というコンセプトで、僕ら視聴者が見ることになるのは、「洋子のはなしは信じるな」を思わせるようなバックの張り紙や他大手YouTuberの編集小技のパクリ、動画内容に絡んだ過剰に、その上につけ足される編集の過剰。
それらだけでも作品として成立しているのだが、動画のラストで明かされる驚きの事実がさらにこの動画を、良いもの、この上ないものにしている。
もし将来、絵画や音楽、映画や漫画と並んでYouTubeが芸術作品のひとつのジャンルに加えられるとするならば東海オンエアは、表現手法としてのYouTubeについて自覚的に思考しそのうえで創作を行った、最初期の芸術家集団として芸術史に名を刻むことになるだろう。