僕自身も立派なオタクではあるが、自分が立派なオタクに成長する以前からずっとオタクが大好きだった。オタクの先人たちの背中に憧れて自分もオタクを目指したといっても過言ではない。
オタクが大好きなので、当然、オタクが作っているオタク・ミュージックも大好きである。そのなかから今日はAnamanaguchiというバンドを紹介する。ニューヨーク出身の4人組で、ギターやベースといった楽器のほかにNESやゲームボーイの音源を前面に押しだしたポップミュージックをリリースしている。
Wikipediaによれば、本人たちは1980年代の日本のゲーム音楽のほかにも、中田ヤスタカや渋谷系の音楽に影響を受けたと語っている。上に貼ったビデオにもいくつかの偽日本語が登場する。
ほかにも、「モニトハニカスチソイスト」「シチスノ モララミ キラカクニソト」「ジュース・ブレイク」といったコクの深い偽日本語が登場はするものの、映像全体のテイストはアメリカのティーン向け量産映画のそれであり、文化のマッシュアップの度合いは激しい。
そのAnamanaguchiが初音ミクとコラボした、その名も「Miku」という曲がある。YouTubeでは600万回再生されているが、あまり日本語圏での知名度は高くないようである。
MVの始まりに無音のなかで提示される題辞がかなりかっこいい。初音ミク(訳:未来からの初めての音)はヴァーチャル・ポップ・スターである。彼女が私たちの世界にやってきた、そして同時に、私たちもみな彼女の世界に踏み入ったのである。
暗い部屋のなかに仄かに輝くDTMデバイスの液晶光。耳に残るフレーズのリフレインと、「うーいーうー」という機械的なスキャット。日本のオタクのツボというか美意識の要点をしっかりとなぞった仕上がりになっていて、海外の音楽というよりはティーンのころに慣れ親しんだ音楽という印象を受ける。「Blue hair, blue tie, hiding in your wi-fi.」という英語ならではの押韻が効いたリリックもとても良い。
オタク・ミュージックとは言っても鳴らしている音にはとくに根暗なところはなく、わりと明るめな曲が多いなかで、この「Miku」にはちょっと湿った、ナードな感傷が乗せられていて、その方面もちゃんとこなせるところはすごいと言うしかない。
2004年結成で2019年現在も元気に活動しているというので、意外に息の長いバンドである。ただ、リリースは2016年の「Miku」を最後に止まっている。