ギターが好きで、しっかりしてて面倒見のいい女の子が、転校してきてカーストトップになったとおもったらすぐいじめられてる、ちょっと性格きつめ?の美少女に出会う。音楽を通じて、ふたりは親しくなっていき、バンドを組んでライブハウスのステージに立つようになる。……というお話。
冬目景の漫画をひさびさに読んだんだけど、近年のトレンドであるところの「百合」エッセンスをめちゃくちゃきれいな手さばきで取り入れていてびっくりした。
でも、読んでみたら読んでみたらで、冬目景の作品に「百合」ってめっちゃマッチする、もはや入ってくるのは必然では…? みたいな気持ちになった。
もともと、細かい会話とか掛け合いのなかで、その人のひととなりとか、人間としての背景とか、人々の関係性とか、おたがいに対して抱いている気持ち、関係の空気感みたいなものを自然に表現するのが抜群にうまい作家で、そもそも「百合」と相性がいい。
そのうえで、いつもの持ち味であるところの、「どこか変に達観していて、腹の中にひとつ隠し事をしていて、素直じゃなくて、でもいいやつらで憎めないキャラクターたちが織り成す青春」も見られて、あー、冬目景はこれなんだよな……、という気分になった。
派手なストーリーの代わりに、一個一個の描写の分厚さがあって、しかもそれにいちいち新規性があってはっとするのがすごい。描いている世界内のリアルさにたいして妥協がないところが本当に信用できる。
さっき「百合」風味といったけど、あくまで「風味」で、基本的には冬目景は異性愛傾向が強い作家。
とくに、なんていうのかな…、初見の印象は「なんなんだこいつ…」という感じで悪いんだけど、かかわっていくうちに、「なんなんだ」部分を補完するような弱さや、それ以外のところにある人間的な魅力が見えてきて、その人のことがずっときになってしまう、みたいな。そんなぐっとくる*1「男」を描くのが非常にうまいんですよね。
そんなキャラクターたちが暮らすいとおしい世界を、激上手な描写とマンガの技術、そして独特なざらつきのある絵で楽しむことができる。楽しんでいるうちに散々引き込まれて、読者にとってキャラクターたちが大切になってきて、リアルとフィクションの区別がつかなくなるくらいまで連れてかれるんだけど、それとは裏腹にお話は毎回グダって終わる、……というのがこれまでの冬目景作品の慣例だったが、
今作「空電ノイズの姫君」と「空電の姫君」(途中で掲載紙が変わってタイトルも変わった*2が、この順につづくひとつのお話になっている)ではそうはならず、……まあ後半はちょっと減速したではあるけれど、でもお話としてきれいな結末までもっていっていると思う。感動した。
……とはいえビターエンドなので、納得いかない人も多いかもしれませんが。でも、物語とその中のキャラのREALに向き合った結果、これしかないの終わりかただと思うので、これは批判ポイントでは全然ないと個人的には思う。むしろ僕ら読者が大人になって、受け入れるべきだろ。
ほかにも大人世代との絡みが丁寧に書かれていたり、バンドを自転車操業で続けていく世知辛さが書かれていたり、そんななかでの疑似家族チックな連帯・居場所づくりが描かれていたりと、読むところがとても多い。
「泣いてるけど知っての通り俺の涙なんて条件反射だからな」と、
「歌ってよ」がシャワーで「なに?聞こえない」だったところ。大好きだったところをあげるとこのふたつでしょうか。
ユーモアと「ほんとうのこと」が溶け合って表現されていて、これができるのがテクストの芸術なんだよな……。
今はタイミング的ににチャンスだと思うので、どうにかして流行ってほしい。大傑作*3なんです。頼む🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏
*1:「イエスタデイをうたっての浪くん」とかやばかったからな。
*3:でも最終的には、「体裁を整えたバンド大好きギャル向け夢小説」みたいな感じになっているちゃなってるので恥ずくて正視できない人はちょっといるかもしれない。いやでも欲望の解放は実際大事なんですが。