ひまわりの歌声と金魚のため息~川口まどか「死と彼女とぼく」~

 

 インターネット上の口コミをきっかけにいまひそかにブームが再燃している、という話題の作品「死と彼女とぼく」を読みました。……とっても面白かった!

 

 町中にうごめく「死者」が見え、話ができるという体質の「時野ゆかり」と「松実優作」を視点人物とした、ちょっとシビアなゴーストストーリー。作中で二人の出会いから、恋人として仲を深めていき、高校も卒業する、……というような時の流れもあるのだけど、エピソードは時間を自由に前後して、さまざまな切り口から語られる。

 

 「死者」はちょっとびっくりするような、不気味なビジュアルで描かれている。生きていた時のことをおぼえている者は少なく、覚えていても断片的だったりする。不自由な死後の暮らしでたまった鬱屈や、生への執着から、生きている人間に対して加害を働く者も多い。

 ただ、彼ら「死者」自身も、自分ではどうすることもできない病気や事故で死んじゃった人だったり、またほかの人からの加害によって殺された人だったりして、……なんか「負」の連鎖みたいなものがけっこうシビアに描かれる。

 

 主人公たちもスーパーな能力があるわけではなく、寄ってくる幽霊たちにちょっと抵抗したり、話し合いをしたりすることができるくらいなので、生前の因縁が解消され本当に悪いやつが除かれてハッピーエンド……! みたいなことにはならず、毎回終わりはビターである。

 

 いまの視点から見ると、社会関係資本に恵まれずそのことが一因となって加害的になってしまう人(→死者)と、そのような人たちと「関われる」能力があるためにケアラーになってしまう人(→死者が見える主人公ふたり)、そしてその周囲の環境の厳しさ(→死者を死に追い込んだ人だったり、死者を不可視とし抑圧する人々だったり)のアナログのように見えるお話ばかりで、かなりせつない。

 とくに主人公ふたりは、死者に絡まれることにうんざりしていてけっこう突き放すことも多いんですけど、そのあたり、一周して擦れたケアラーといった感じである。

 

 シビアながらも、かなりきれいな結末が用意されているお話もあって、胸をうちますね。「チューリップ王子」がいちばん好きです。ほかにもいい話がたくさんあります。

 

 好きついでに好きなキャラの話をすると、主人公の「時野ゆかり」がとてもいいキャラをしていて好き。絡んでくる死者に疲れ果てていて、生活に入り込んできてほしくないと思っているけれど、ときには積極的に死者や生者が抱えている問題に介入する。強力な死者にも物おじしない強さもあるし、逆に自分の身なんてどうでもいいと思っている。そして、自分が置かれている状況に対して受動的でいられる勇気がある*1

 

 そういうキャラがすきなひと、あるいはもうひとりの主人公の松実くんみたいなキャラが好きでもハマると思います。

*1:この属性を持っているキャラずっと好き。