小島庸平『サラ金の歴史』

 

 今日はとても面白い本を読んだので、読書好きの皆さんに紹介しなきゃな!

 

 個人的にサラ金については、予備知識も興味もなく、「そういえば子供のころは、取り立てを苦にして自殺したひとの話などをニュースでやってて、それが流れるたびに親から『あんたはサラ金から借りたらだめだよ。まずはお母さんやお父さんに借金するんだよ』*1とすっぱく言われていたなあ…」という思い出がある程度である。

 

 そういう、負の印象が強い「サラ金」について、基本的なところに立ち返って問いかけをするところからこの本は始まる。

 そんなにお金を持っていないひとにお金を貸して、暴利で取り立てる、ひどいビジネスモデルだ。……ちょっとまてよ? そんなにお金を持っていないひとというのは、本来ビジネスでお金を貸す立場からすると、絶対に貸したくない貸し倒れのリスクが高い相手である。そういったひとは基本的に信用されず、資金を融通してもらえない。そんな金融ビジネスはふつうの発想では成り立たない。だからこそ、農村の一般貧民相手にまさかの無担保融資をすることで貧困脱却の道筋を提供したムハマド・ユヌスグラミン銀行ノーベル平和賞までとったのである。

 

なぜ純粋な営利企業であるはずのサラ金が、貧困層を金融的に包摂するに至ったのか。サラ金がセイフティネットを代替するという「奇妙な事態」が生まれた歴史的背景を、本書では考えてみたい。

 一般の給与所得者が生活上の資金ショートに際して利用する無担保融資、というよく考えると不思議なサービスを提供するサラ金。それを可能にした金融技術や、その下地となった明治期からの素人高利貸しの文化、サラ金の企業風土やサラ金を取り巻く法的環境、そして利用者である家庭が置かれていた社会的・経済的・ジェンダー的に特徴的な状況、……などなどあらゆるトピックから「サラ金」というビジネスが掘り下げられていく。

 

主婦を相手にした団地金融が衰退し、夫の出世のための金を貸すサラ金が成長するという消費者金融の交代劇には、家計をめぐる夫婦間の非対称的な力関係が深く関わっていた。

 ミステリっぽい、「謎→意外な事実→解決→さらなる謎」の展開がある素晴らしい学術書で、読んでいてとてもスリリングで面白い。明らかになる事実も、ふつうに生きていたらまず知らないことなので、知的好奇心もとても満たされる。サラ金に興味あるひともないひとも、もう総量規制いっぱいで借りているよ!というひとも、つぎの緊急事態宣言の巣ごもり期間中などに読む本がないよってひとにも、とてもおすすめの本でした。

*1:いい家庭に育った。