全く体には良くないよ
でも多分それがこのイベントの趣旨だ
ロンドン・エディンバラ・ロンドン - Amazon Prime
キルメン・ウリベの『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』が明らかにしたとおり、いくつかの地名を並べて、移動を示し、その移動の内容を描いた作品のタイトルに冠した、……という形式をとっている作品はとても良い。最近見た「ロンドン・エディンバラ・ロンドン」もそのとおりの良さを持っていた。
ロンドンを出発し、スコットランドの古都エディンバラへ行き、また戻ってくる。全長1400km*1の耐久自転車レースを撮った1時間程度のドキュメンタリー作品。
レースの成り立ちとか、ルートの詳細とか、……主催者側に取材したら喜んで答えてくれそうな補足情報はほとんどなく、映像は「休憩所の様子」「コースの風景・イギリスの田舎の道路」「この苦しいレースを走る名もなき自転車乗りたちへのインタビュー」の3つで占められている。
レースの模様を時系列で追いかけていくのだけど、いまこの人がどこにいるとか、全体の何割ぐらいの部分を走っているのかとか、そういう情報も示されないので、まるで、見ているひとも終わりの見えないレースをいっしょに走っているかのような、迫力のある没入感が得られる。優しげな顔をした日本人中年男性のラストのシーンでは、ちょっと涙ぐんでしまった。
素晴らしい日だよ
美しい時だ
ちょうど日が差して
右側に連なる丘が
色とりどりに染まり
パッチワークキルトみたいだ
坂を下ると 今度は
美しい丘を登る道になる
今日はきつい坂道はなく
いい感じで走れる
美しい景色を味わいながら
思いを巡らせたり
通りすがりの人と話したり
どれも楽しいよ
レースに挑戦する人々の語りは散発的で、なにかひとつのテーマに向かってより合わさっていくようなものとはなっていない。
しかし、そういう語りが持つ、偶然的な良さというか、たまたまこの人がこのレースに挑戦して、制限時間に間に合うために夜を徹して走り、きつい上り下りの繰り返しを越え、休憩所や道路の上でカメラに向かってちょっと話をする、……準備してきた言葉ではない、いまここでこの状況にいることから生まれてくる思いを話す。……そうして出てきた言葉には迫力があるし、迫力があるだけではなく、いくつかの場面では美しい詩になっている。
いまのところAmazonプライムで見れるみたいなので、加入者にはおすすめです。
*1:日本でいうと、東京と青森を往復すると大体おなじ距離になる。