犬さん、というインターネットで有名(フィリピンのカジノで破滅する様子がツイッターでバズっていてそのときにファンになった)なギャンブル依存症のかたがいて、そのVlogがとても面白くてずっと見ていた。
突然なんですけど、僕の借金の総額をいまから調べたいと思います。
カードを一枚ずつドローして借金の総額を調べ、エクセルに打ち込んで整理するところから【賭博狂の詩】と題されたシリーズ動画は始まる。手持ちのカードをひとつひとつ提示しつつ、そのカードを作ったタイミング、なにを払うために作ったのか、まつわる借金の思い出を語る、独自のコンテンツ性を持った動画である。
とはいっても、ここから地道に、こつこつと努力して成り上がっていく動画というわけではない。ひとの良さを生かしてご飯をおごってもらいながら毎日を過ごし、たまに日雇いをし、それを元手に借金を借り換えしながらなんとか家賃を払い、その合間にギャンブルをするという生活の様子が淡々としたトーンで記録されている。
十八頭もいる…。そんなの、当たんないっすけどね、ふつう…。
レース直前の映像を見ながらぽろっとこぼしたこのひと言が本質をついていて感動してしまった。僕みたいなもうまったく賭け事をやらない人間がこれを言うとフェイクになっちゃうんですよ。浸かりきった場所でやっと言える真実の言葉というのがこの世の中にはある。
リアルなシチュエーションが増強している、という要因も大きいのだけども、それを差し引いても言葉選びのうまい、詩人タイプのかたで、朴訥と語られる言葉のひとつひとつに心を動かす力がある。
「現金は仮想通貨よりも不安定」というパンチラインが輝いている。ATMに入金しても、1万円以下なら引き落とされないという生活のtipsが披露されるのも良い。
この後、ここで預金した6000円は哀れな末路をたどることになる。
「執筆」と題されたこちらの回では、パチンコを売ったあと、「おいおい、いいパソコン持ってんじゃねえか」という視聴者からのツッコミに答えている。べつに借金があってもパソコンくらいはいいものを持っておくといい(とくにこのかたのようなスキルセットがあれば)のだけど、貧乏して人に頼る生活をしていると、良いものを持っていることにちょっと違和感というか罪悪感が芽生えるものですよね。
この動画でも、フィリピンのマフィアにこのパソコンを売ったあと買い戻したエピソードを語って、パソコンを持つことに対してのエクスキューズをしている。
僕の支払わなきゃいけない金額に対して、お金を作っていく能力が追いついてないんですね…。
回を重ねていくにつれ、この(まだ人生を立て直せる)多重債務者の、人生に対するスタンス、内面に持つ考えかたが見えてくる。てらいのないひとつのセルフ・ドキュメンタリー作品だ。
まだ、自己破産する感じではないかなあ、と思うんですけどね。まあ、……うん。プライドじゃないですけど、なんとなくね。
自己破産は「する理由がとくにない」からしていないと言う。この「する理由が特にない」という感覚が怠惰な人間のひとりとしてちょっと僕の心に刺さった。他人のようには思えずに、このVlogの更新を追いかけている。
もともと多くのフォロワーがいる、インターネットの有名人なので、YouTubeの初動はかなり良かったが、まあ世のなかの常で、すこしずつ数字は落ちてきている。しかし、物珍しさとか、好奇心だけで済ませてしまうにはちょっと惜しい、ある種の人間の内奥がちょっと見えるドキュメンタリーなだけに、もうすこし視聴者を獲得してほしい。
ここまでの断片で、ちょっとでもピンときたかたは、ぜひ動画をどうぞ。noteもとても面白いので、動画が苦手であれば、こちらでも。