RISAさんはどうしているだろうか

 

 「知らないひとに誘われているオンライン飲み会があるので、いっしょに参加してくれませんか?」と、友人から連絡があった。

 

 とある駅前を歩いていたらとつぜん「ここらへんにいいお店ないですか~?」と話しかけられ、そのまま話の流れでLINEの連絡先を交換し、そのあともメッセージをやり取りするうちに、「オンライン飲み会でもしませんか」という話になったのだという。

 

 友人は「楽しそうだけど、宗教勧誘かもしれない」と疑っていて、ずるずると勧誘されてしまわないように、ちょっとした安全弁として僕に同席を頼んだ、ということである。

 

f:id:kageboushi99m2:20200517224534p:plain

 さて、てきとうにワードを選んで検索してみるとこのような事例がヒットする。これはけっこう世のなかにあるネットワークビジネス勧誘手段みたいで、あまりにも動きが画一化されているので、そういう情報商材が出回っているのかもしれない。

 

 そのことを友人に伝えると、「でも、万が一、これで新しい友達ができるってこともあるかもしれないから…」という調子だったので、同席を承諾した。

 

f:id:kageboushi99m2:20200518035339j:plain

 そういう会話をLINEでしていて、昔RISAさんというひとと知り合ったときのことを思い出した。むかし、先輩と居酒屋で飲んでいて、となりの席でやばいくらい盛り上がっていた40歳くらいの女性の二人組がいて、仲良くなった。そのうちのひとりがRISAさんで、話の流れでLINEを交換することになった。

 

 飲みの席で近くにいた人と意気投合して交換したLINEというのは通常二度と使われることはないのだが、RISAさんは違っていて、頻繁に連絡を取ってきた。自分のインスタグラムのアカウントを教えてくれたり、「お金稼ぎたい欲とかないん?」と聞いてきたり。はじめて会ってから数週間後に、また一緒に飲みに行くことになって、そこで彼女は自分の人生の話をしてくれた。

 

 これがけっこう面白かった。細かなところは書けないが、元夫がめちゃくちゃダメ人間で、夫婦の貯金を全部持って飛んでしまったというエピソードが「REAL LIFE…」という感じで切実だった。RISAさんには僕とほぼおなじ年ごろの息子がいて、飲み会の終盤にはその息子さんも合流して3人で飲んでいた。大工をしているという息子さんは、いかついファッションをしていたけれど、おっとりした性格なんだろうなというのがすぐにわかる感じで、好感の持てる人物だった。

 

 「私ずっと貧乏な生活してるの嫌なんだよね」「海外行きたいの海外!」酒が進むとRISAさんはずっとそう言っていて、息子さんはそれにうんうんと、同意でも否定でもないような優しげな感じでうなずいていた。

 

f:id:kageboushi99m2:20200518040621j:plain

 その翌週ごろに、「大切な話があるんだけど、1時間ぐらい時間作れん?」という連絡が来た。そのころにはうすうす察していたので、僕は遠回しに伝わるような形で断ったのだけど、それくらいでは引き下がってくれなかった。向こうも後には引けなかったのだろう。「とりあえず、直接話すところまで持って行きなさい」と、マニュアルには書かれていて、それを守るように言われているのかもしれない。

 

 結局電話で話すことになって、RISAさんの話す「この投資ビジネスにあなたが申し込むべき理由」をとても切ない気分になりながら聞いていた。世のなかはひどい。もうすこしなんらかのものがうまく配分されていれば、こんなにひとりひとりがみじめであることはなかったのではないのか。

 

 当たりさわりのない感じで勧誘を断ったあと、RISAさんからのLINEは来なくなった。知り合ったときに同席していた先輩に、いちおう注意喚起のLINEを送っておいた。

 

 たぶん、最初居酒屋さんで話したときは、べつにカモを探していたってわけじゃなかった。ただ、思いがけず居合わせたひとと仲良くなって、「どうせなら勧誘してみるか」「せっかくつながりができたんだから、お金に替えれるかやってみなきゃ機会損失だよね」という気持ちにRISAさんはなったのだと思う。この、「どうせなら勧誘してみるか」「せっかくつながりができたんだから、お金に替えれるかやってみなきゃ機会損失だよね」というのを、簡単に思わせてしまうようなシステムというのがこの社会にはあって、それがあるということがとても悔しい。生きているあいだに、もうすこし社会を良くしていきたいですね。