悲しき仕事人のサイクル~デイヴ・エガーズ『王様のためのホログラム』~

 

王様のためのホログラム

王様のためのホログラム

 

 主人公のアランはアメリカ人。中年のビジネスマンであり、昔はものづくり業界で大きな成功を収めていたが、新興国の台頭というグローバル経済的な流れには勝てず、徐々に自らのキャリアを落としていく。いまはしがない営業?コンサルタント?で、知人に小分けに借金をしている。娘は私立大学に通っていて、来学期の学費を払えるかは心もとない。

 中年にして襲い掛かってきたこの経済的な苦境を乗り切れるかどうかは、サウジアラビアにある王の名前を冠した都市、キング・アブドゥラー・エコノミック・シティ(KAEC)で会議用のホログラム技術を売れるかどうか、その一点にかかっている。砂漠の都市でプレゼンの準備をしながらひたすら待つが、一向に王はやってくる気配がない……。

 

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 ストーリーラインはカフカの『城』のような感じ。王様にプレゼンしたいんだけど、まあ物事はまったく進まない。そんなお話をコミカルにやりながら、その合間に現地の人々や文物とのふれあい、友情とロマンス、主人公アランの半生、あるいは家族のエピソードが断片的に挿入される。エピソードはそれだけで成立するもので、本筋と合流して解決に至ったりはしない。

 

 ただトーンは統一されていて、弱肉強食のグローバル資本主義社会で責任と負担を抱え、不安にさいなまれるビジネスマンの様子が残酷なほどコミカルに、痛切に描いていて、この本の一番の面白がりどころはそういうところだと思われる。仕事がうまくいかず、ひょっとしたらこのプロジェクトは失敗に終わるのではないかという恐怖に襲われるたびに、酒やパラノイア、自己弁護に逃避し、それがおさまったら急に自己肯定感を回復するアラン。しかし、自分はできる人間なのだということを周囲や自分に見せつけようとして行うチャレンジは、ほとんど惨めな結果に終わる。不安・恐怖→逃避→突然の自己効力感→失敗。お話のメインコンテンツはこのサイクルである。

 このへんはちょっと作者は作りこみ過ぎで、アランがかなりかわいそうなのだけど、まあそっちのほうがお話としては分かりやすい。

 

 どう考えても映画化を見越して書かれた小説で、実際にトム・ハンクスがすぐさま主演映画化している。アマゾンプライムの会員特典で見れるらしい。97分と書いてあるのでほんとうにサクッと見れる良いコメディになっているんだと思う。きっと面白いんでしょう。