夢日記(2019.8.30)

 

 この日はとても完成度の高い夢を見た。朝起きたらかなり難易度の高い、やりたくない作業をしたあと、夜もまたそれなりに憂鬱なバイトをしないといけない、人生にできればあってほしくない、昨日の夜も逃げるように眠った、そんな日だったので、その朝を完成度の高い夢で迎えることができたのは非常に良かった。

 

 ディストピアものの夢だった。なんらかのパーティーの途中で、画面に映った独裁者が唐突に、「これからはこれまでとは違う」と宣言し、はしゃいでいたパーティーのお客さんは静まり返る。窓から街を見渡すと、人々がスマホの画面を覗きこみながら港へ歩いていく。

 

 これがなんのパーティーだったか思い出した。この国の人民はなんらかの基準によってふたつに分けられていて、パーティーにいたのは基準を達成した組で、外にいたのは基準に満たない人々。港には「チョーカー」と呼ばれている種類の船が停泊していて、基準に満たない人々はスマホから顔を上げることがないまま、まるで洗脳されているみたいに船に乗り込んでいく。パーティーの参加者は必死にその流れを押しとどめようとするけど、人々はスマホに夢中で言うことを聞かない。

 チョーカーには効率的に人間を海に沈めて殺す機械が積まれている。

 

 虐殺の一夜のあと、選別された人々のうち一部はパルチザンとして地下のなんらかの遺構に潜伏している。選別された人々は選別されただけあって、それぞれ特別な技能を有していて、その力を合わせて独裁者を倒すつもりでいる。

 エンジニアだったり傭兵だったり科学者だったり、わかりやすい強みを持っている人もいれば、酒を飲んでヨガをして寝ているだけの人もいる。彼の仕事はアイディアを出すことで、その直感を研ぎ澄ませるために毎日酒を飲んでヨガをして寝ているのだという。

 しかし、これまでのところ彼が役に立つアイディアを出したことは一度もなく、出したとしてもそのアイディアは尊重されながらも、結局は会議で却下されるだろう。

 

 ……という夢だった。個人的に感動したポイントは3点。

 

1.スマホ歩きで虐殺の場に向かう大勢の人々

 これは夢の中で目の当たりにして恐怖だった。いまや我々を操っているのは巨大なスクリーンではなく、手元にある小さな画面なのである。巨大なスクリーンならば、個人の努力で目をそらすことができるかもしれない。でも、手元にある、自分の意志でオンオフすることのできるスマートフォンならどうだろう。ヴィジュアルとしても恐ろしかったが、示唆しているものももっと恐ろしい。

 

2.「チョーカー」という船のネーミング

 チョーカーというのは一般的な名詞で、タイトな首飾りのことを指している。しかし、おおもとの意味は「choke」(窒息させる)+「-er」(~る者)である。また、巡洋艦(cruiser)や駆逐艦(destroyer)などのように、物騒な船には「その船の仕事を表わす動詞+er」というネーミングがされていることが多い。

 そもそもフィクションの登場事物に一般名詞をつけなおすことはかっこよく、さらにそれが命名慣習に従っていて納得感がある。なんというクリエイティビティだ。

 

3.毎日酒を飲んでヨガをして寝ているアイディアマン

 この人はパルチザンの活動の役にあまりたっていないので、物語としての筋からすこし離れた挿話としての役目しかない。しかし素晴らしい挿話だ。そういう、生産性のない職が許されているパルチザンの先進的な組織構造に感心するとともに、しかしそれでも、結局は浮いたアイディアマンは役に立たないであろうという悲観的な描写には寓話性を感じる。