P2P技術を駆使したハッカーの話なのかな、と思って読んだけどそうではなかった。曲がり角を迎えるCD産業を凄腕経営者の視点から、CDからストリーミングの時代への移行を圧縮技術「mp3」の開発者の視点から、海賊シーンの栄枯盛衰を発売前の音源リークに携わった工場ワーカーの視点から、……この三つの筋が交互に語られて、そのあいまあいまにほかのさまざまな立場の人のストーリーもあって、最終的に「誰が音楽をタダにした?」というテーマでまとめている、といった構成である。
ただ、あんまりそれぞれの登場人物の話のあいだに関係性がないので、べつの話をちょっとずつ読んでる、みたいな感じでもある。だからと言って本としての最終的な面白さに大差があるわけではないのだけど、ノンフィクションの芸術点としてはそんなに高くはない、かな…。
90年代~00年代、この物語の舞台になる時代に出たロック、ポップ、ヒップホップの名盤・名トラックの名前がめちゃくちゃ出てくるので、この時代の音楽シーンに愛着を持っているひとが読んだらたぶんとても楽しいと思う。過言を言うとほぼミュージックガイドみたいな本である。
映画化も決まってるらしいけどぜったい後ろで懐メロを流したいだけだろ、と思った。原作にある膨大な楽曲引用の中からどの曲を実際の映画に流すかだけで30回は会議しててもおかしくない。
若いころ*1は、この365日短歌日記シリーズ、「上がり切った人らの余技で、本当に読むべき作品は1首もない」と思っており手を付けていなかった。が、実際読んでみると、「日付のあとちょっとした日々のつれづれ書きがあってそのあと1首があるというつくりの本を読む」ことにはなんとも快感があるなあとは思った。
いくつも並んだ歌の連続性や非連続性のなかに、ひとりの人間が見えてくるというのは短歌では重視されている「良さ」だけど、それもちょっとずつわかるようになってきた気がする。
ただでもまだ俺は尖った……、ナイフ……、まあ尖った鉛筆くらいか。なので、とくによかった歌をメモとかはしなかった。しかも1年が収まっている本ですが3時間でRTA読みしました。
*1:若いというと18歳~2,3か月前くらい前までかな。