鶴見済さんの本『人格改造マニュアル』を読んでいた。「自殺をせずになんとか生きていきたい人が、薬物や洗脳、サイコセラピーなどの方法で人格を望ましいものに変える」ための手段が記された「実用書」となっている。この本そのものも、企画自体はあったもののなかなか手をつけられなかった作者本人が、この本に記されたような手段を使って猛烈な勢いで仕上げられたものらしい。
覚醒剤は素晴らしい。
その圧倒的な力の前では、どんなクスリも色あせて見える。まるで"格"が違う。本書でももちろんトップに持ってきた。トップはこれ以外にはありえないのだ。うつ、無気力、暗い、内向的、消極的といった多くの人がなんとかしたくてもどうにもならない性格・タイプも、このクスリはすべて一瞬にして消し去る。
と、いきなり覚醒剤の大礼賛からはじまり、アルコールやカフェインなどの身近な薬剤、催眠や自己開発セミナー、サイコセラピー*1などが解説される。
情報に網羅性や正確性があるわけではないが、挿入される体験談や本文の語り口はやっぱり面白い。
『完全自殺マニュアル』という90年代を代表するヒット作を書いた作家であり、それにもあった、アンダーグラウンドをのぞき見したい読者の好奇心を受け止めつつ、作者の優位な立場を利用して節度を保ち、お返しのように驚きのある情報を記述する、という感じの筆致を同様に持ち合わせている。
読んだのが会社の始業前の朝の時間で、その日はやらなければいけないことが珍しくたくさんあったので、「400mg(コーヒー4杯分くらいらしい)を超えたところではっきりと効く」とあった本書の記述を信用して、そのままインスタントコーヒーと紙コップを買ってきて、コーヒーを相当量一気飲みしてからはじめ、そのあとも一定時間ごとに飲みながらすすめたのだけど、たしかにその日は定時前後くらいまでに猛烈な能率で仕事を仕上げることができた。
「洗脳」の章でも解説されるが、漫然とやるのと、「効くぞ!」と言われて「効くかも?」と思いながらやるのではやっぱり違うのかもしれない。
その後友人に、「カフェイン、容易に『飲まないとしんどいが飲んでも効率が上がらない』という状態になりがちなので、依存には気をつけてください……」とTipsをもらい、コーヒーは二度と飲まないことに決めた。
2020年ともなると隔世の感があるが、思春期に慣れ親しんだ00年代のいろいろなテクストの、その価値観を準備した親のような作品だと位置づけられるでしょう。あえていま読むのは、とても面白かった。