彼は命からがらやってきた

 

彼は命からがらやってきた
端っこが擦り切れ
コーラのシミのついている愚行権
それを通行証だといい張って
まるで主人公のようにこの街へ

 

彼女は殺しにやってきた
かつては魔法が使えたが
ある日自分を解いてしまって
暗器を身に帯びた
一人前の殺し屋になってこの街へ

 

あぶない!
彼と彼女
ここには

 

「第三者」がたくさん潜んでいる
セミナーハウスの折りたたまれた椅子の隙間に
声をかけてくる学生のクラッチバッグのなかに
集中力を高めるように配置された桜並木の影に

 

まけるな!
彼と彼女
時間を

 

奪い取ろうとして待っている「第三者
奪い取ったところで奴らには
使いこなせるはずもないのに

 

けれど声をあげている僕たちも
「第三者」といったいなにが違うだろう
貴重な時間を費やして
彼と彼女を視聴する僕たち

 

そんな当たりまえのことは
彼も彼女も知っていて
僕たちを告発しはしない

 

そこでバスが現れて
彼と彼女をつぎの街へ運ぶだろう
そこにはロマンスが待っているが
僕たちは見に行くことができない
ここではたくさんの人が死ぬだろうが
彼も彼女もそれを関知しない

 

去ってゆくバスを追いかけて
助けてと無様に走る君は
つぎのブロックに至るまえに
僕たちの仲間に囲まれて
すぐにおとなしくなるだろう