シマ・シンヤ「ロスト・ラッド・ロンドン」

 

 シマ・シンヤさんのマンガ作品「ロスト・ラッド・ロンドン」を読んでいました。とても面白かった!

 

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 リベラル派のロンドン知事が暗殺された。大学に通う青年アルは、ひょんなことから暗殺事件の重要な証拠を手に入れてしまうのだが、彼の人種的バックグラウンドにより、そんなものを持っていると警察に知れたらまともに話は聞いてもらえず犯人にされてしまうだろう。アルは、過去にかかわった冤罪事件の傷を抱えているエリス警部の家に転がり込み、男二人暮らしをしながら事件の真相を解き明かそうと試みるが…? という感じのミステリ仕立てのお話。

 まず悪いところから先に言ってしまうと、このお話、ミステリとしてはあんまりおもしろくない。……なので、「ミステリ、謎解き、わくわくする!🤗」というような気持では読まないほうがいいと思います。

 

 では、どう読めばいいのかというと、読みはじめるとわかるのですが非常に雰囲気が良い。人生をなんとなく達観している幸薄げな青年と、古傷*1を抱えてめんどくさい性格だけどなんやかんや周りからは愛されているおじさん刑事。この2人を中心にどのキャラクターにも味があって、セリフや表情のひとつひとつを見ているだけで楽しい*2です。

 

 また上のあらすじでも述べたように、主人公の人種的背景が非常に重要な話のキーになっている。ということで、作品全体がリベラル的な問題意識を取り上げたものになっているのですが、それをお話の中に巻き込んで、ひとつの構造体にすることに成功している。

 「人を属性としてだけ見て、人間として見ない、それが冤罪につながる」というモチーフが反転されて「人を注意深く見つめることで、事件の手掛かりを見つけ出す」になったり、みたいな、モチーフ同士の良いつながりがあってきれいなのである。

 

 その他のマイノリティも無視されることなく作中では描かれていて、アグレッシブなところはたぶんないのではないかなと思う。そういうタイプのフィクションを求めている、……というかそういうタイプではないフィクションには触れたくないというときもあると思うのですが、そういうケースに非常におすすめできる。全3巻と分量もコンパクトです。

*1:今傷もあるのだが。

*2:絵が「芝居をしている」という感じがする珍しいマンガである。