組体操の思い出

 

 Twitterをしていると組体操の話題がよく流れてくる。そういえば組体操の思い出がある。

 

 僕は当時地元の小学校に通う5年生だった。体が綿毛でできていたという事情もあり、体重が非常に軽かった。たしか、僕は重さ18kgの状態で小学校に入学し、毎年1kgずつ順調に成長していったという記憶がある。小学校5年生のころには23kgあった計算になるが、これはめちゃくちゃ軽い。ひとに会うたびに「細いね~」「ご飯食べてる?「前より痩せた?」(痩せてない)と聞かれていた。

 

 その軽さがたったひとつの決め手となり、僕は運動会の出し物の組体操でタワーの頂上に立つ役目に回されることとなった。

 

 僕の小学校の運動会で毎年5年生男子が行うことになっていた組体操には、ふたつの大技があった。ひとつは4段ピラミッドで、10名の小学生が4名3名2名1名と這いつくばってピラミッドを作り、一番上の1名の背中の上に僕が立って腕を広げることで完成する。こちらは四つ足で体重を支えることもありそこまで難しい技ではなく、練習でも危険な崩れかたをすることはなかった。

 

 問題だったのはもうひとつの技、3段タワーのほうである。まず1段目を構成する9名が円陣を組んでしゃがむ。その上に6名の円陣が乗り、さらにその上に3名の円陣が乗る。しゃがんだ3段のクラスメイトたちの上に僕がよじ登る。そのあと、9名が立ち上がり、6名が立ち上がり、3名が立ち上がり、その上に乗っている僕が立ち上がる。これで成功、となる技であったが、まあ難しかった。

 

 練習での成功率は5割を切っていた。小学生とはいえ3名分の上に乗るのであるからけっこうな高さがあるうえに、みんな立っているのでバランスを崩したときはけっこうあらぬ方向に落ちてしまう。

 

 事故を防ぐため、タワーのメンバーにあぶれたクラスメイトたちが、「タワーが崩れたら受け止める役目」としてタワーの周りに配置されていた。そのなかに、当時学年でいちばん体重が重かったAくんがいた。

 

 Aくんは、濁した言いかたをすると、当時その学年内で身内からそこまで敬意を払われていないひとだった。断言はできないけれど、ひょっとしたら軽いいじめくらいはあったのかもしれない。彼は太っていて、近づくとすこし臭かった。異臭が苦手だったり、異臭を憎んでいたり、そもそもたんにひとを軽んじるのがライフワークなひとはけっこういるものである。

 

 タワーが崩れるたびに僕は彼に受け止められることになり、当然においがする。最初にタワーが崩れて受け止められたときは正直「これが続くのかよ、勘弁してくれよ」と思った。

 

 練習を続けるうちに、僕を受け止めてくる彼との信頼関係も徐々にできていって、しだいに、タワーが失敗しなかったとき(その場合僕はふつうにタワーをいちばん上から這い降りていくことになる)もぐわっと僕をかかえておろしてくれるようになった。そしてそういう練習が続くと、ひとが発しているにおいとかは、信頼感や安全に比べてそこまで重要ではないものになってくる。

 

 本番までずっと、変わることなく彼は臭かったが、でもよく考えてみるとひとが発しているにおいというのは、そんなにたいしたことではないのではないか。発しているにおいの良しあしでそのひととの付き合いかたを変えることもないのではないか。人生の早い時期に体感レベルでそう思えたことは本当に良かったと思う。あのときの彼に、改めて感謝します。