どうぶつの森の思い出

 

 人間は人生をプレイしているのとおなじようにゲームをプレイする。ニンテンドーDS版の「おいでよ どうぶつの森」にはまっていた時期があったのだけど、僕のゲームプレイスタイルは現実プレイスタイルとほぼ同じであった。

 

 家には家具をまったく置かず、かわりに、必要になったタイミングですぐ持ち出せるようオノやパチンコなどの小道具を床に直置きしていた。あと、いつ置いたのかなんで置かれているのかもよくわからない魚とかリンゴとかも野ざらしで床にあったような気がする。片付けなきゃ片付けなきゃと思っていた記憶はあるが、思う以上のアクションは起こさずじまいだった。

 

 他人にもまったく興味がなかったので村人と交流することもなかった。村にはほかの動物もいるらしいということは感じていたが、隣人に対して感じていた感情は「どうやらいるっぽいな」だけだった。魚を釣り、木の実を集め、化石を掘ってそれらを売り、ひたすら借金を返し、返し終わったあとはお金を貯める。それだけの生活を送っていた。

 いま思い返すと、ゲームの「ここを楽しんでくださいね!」のコンセプトにまったく乗れていない非典型的なプレイヤーだったということがわかるが、当時はそれはそれで楽しめていた。どうぶつの森というゲームは懐が広い。

 

 そんな僕に転機がやってくる。村に見知らぬ新しい隣人が引っ越してきたのだ。灰色のオオカミで、ひと目見た瞬間「なんかかっこいい」と思って、おもわずリンゴ採集を中断して話しかけてしまったのである。名前は「ロボ」というらしい。つぎの日、またゲームを起動したときも、なんとなくロボのことが気になって探してみた。家の場所が分かった。話してみると、こわい見た目に反して気さくないいやつだった。すこしずつ、彼と友達になってみたいという気持ちが湧いてきた。

 

 それからはいろいろなことをやった。見かけるたびに話しかけたり、イベントのたびに姿を探して、姿を見つけて安心したり、シンプルに物をあげたりした。僕にとっての村はあいかわらず労働の場だったが、同時に「ロボがいる村」にもなった。何か月かそういう交流を繰り返すと、ゲーム内のなんらかのパラメータが上がるらしく、僕とロボはおたがいの家を行き来するくらいの間柄になった。それがうれしかった。

 

 そんなある日。……けど、本当にこれは長いあいだ自分にとっても気持ちの整理がつかない出来事で、笑い話として語れるようになるまでにけっこうな努力が必要だった。僕と多少のかかわりがあるひとにはぜひ信じてほしいのだけど、ほんとうは僕は、そんなことをするような人間では本当にないんですよ。でもやってしまった。

 

 ある日、なんの前触れもなく、一通のそっけない手紙だけを残してロボは村を引っ越していった。本当にびっくりした。そんな話聞いてなかった。さびしかったのはもちろん、……すこし裏切られたようにも思った。

 

 ロボがいなくなったかわりに、アランという名前のゴリラが村に引っ越してきた。なにかの反動があったのでしょう。僕はそのアランがめちゃくちゃ嫌いになり、めっちゃ嫌がらせをしてしまった。

 具体的には「死ね死ね死ね死ね…」と埋め尽くした手紙を毎日毎日何通もアランに送りつける、など。わざわざ彼の家の周りをスコップで掘り返して穴だらけにしたりとかもした。いま思うけどなんであんなことしたんだろう。なんで平和な森に憎悪を持ち込んでしまったんだ……。自分が恥ずかしい。

 

 けれども、それを自分がしてしまったということ、そういうことが人間にたいしてふつうにできてしまったという事実。それは確かなので、それとともにこれからの人生を歩んでいかなければならない。

 

 あのときのことを、アランに謝りたい。