それでもモーニング・ルーティーン~「ラッキー」~

 

遺伝子的にラッキーで丈夫すぎるジイさんだ

 

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 まずは老人のモーニング・ルーティーンを見せられることになる。目覚めとともにたばこに火をつけて*1、ラジオのスイッチを回す。スリッパに足を入れ、体を拭き、ひげをそる。歯を磨いて髪を整える。そして、ヨガ体操をする。

 

 僕はまだ25年くらいしか生きておらず、ランダム性の高い暮らしを好んでいるので、体に身についた習慣というのはあまりないのだけど、90年も生きるとやっぱり違うのでしょう。モーニング・ルーティーンのあとも、映画は規則正しく進んでいく。老人は散歩し、行きつけのダイナーで店員と親しみのこもった罵倒を交換し、コーヒーを飲みながら新聞のクロスワードパズルを解き、商店で買い物をする。なにかよくわからないけれど、その途中にあるとある場所*2で立ち止まって「クソ女ども」と呟く。テレビでクイズ番組を見て、行きつけのバーでブラッディ・マリア*3を飲む。

 

現実主義は物(Thing)だ

 

 しかし彼はもうたいそうな高齢者であり、そんな規則正しいささやかな日々がこれからもずっと続いていくことは望めない。ずっと続いていくことが望めないのは我々も同様なので、違いを強調して言うのであれば、彼のルーティーンはあしたにも終わるかもしれない。家でたばこを喫っているときにとつぜん脳の血管が破裂して、ひとり暮らしなので救急車を呼んでくれるひともなく、そのまま死んでしまうかもしれない。

 

心配しているふりして目当てはカネだろ

人を食い物にする寄生虫

 その日々のなかにいくつかの登場人物が現れ、老人の日々にエピソードを挿入する。ストーリーの構成はとてもシンプルで負荷がすくない。なにかを計算しているというよりは、いい意味でのなにも考えてなさがあって、そのぶん解釈に対して開かれている。なにか設計図があってそこからトップダウンでつくられているわけではなく、生活に根差した発想をもとにしたボトムアップな構成がされていて、それがとてもうまくいっている作品だと思う。

 

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 主演はハリー・ディーン・スタントンさん。この映画の封切りよりまえに亡くなったらしい。調べるまで知らなかったけど、個人的に印象に残っている有名な映画「パリ、テキサス」で主演だったかたでした。

 

 永遠のように思っていることが終わることについて、死の恐怖について、いろいろなひとが意味深なことを言うけれど、どれかが正解であるような、あるいはあつまってひとつの答えになるような、そんな描きかたはされていない。あんなに長く生きてても、いまだにひとつの謎なのでしょう。人生の終わりというものは。

*1:喫煙者と寝食を共にしたことがあるひとは知っていると思うが、やつらはまじで起きたらたばこを喫う。寝起きにめっちゃ喫いたくなるものらしい。

*2:映画の最後で正体がわかる。

*3:ブラッディ・メアリーのテキーラ版らしい。