高校生家族 1/仲間 りょう | 集英社 ― SHUEISHA ―
なんの変哲もないふつうの男の子の春。高校に入学し、いざ入学式へ…!としようとしたら、なんと父と母と妹と飼い猫が現れ、彼らも高校に入学するのだという。当然彼は嫌がるのだが、そうはいかず、「高校生家族」としてみんなで高校に通うことになってしまう。一生に一度しかない高校時代の青春は、台無しになるかに見えたが……。
というあらすじを教えられて、「このマンガめっちゃ面白い」「大好きなんですよ」「おすすめである」という話を人からされたことが人生で数回程度ある。そのときは「そういう漫画が好きな人がいるのはわかるが、まあ~、俺のなかの連載会議は通らないかな笑」と内心思うくらいの印象しか受けなかったのだが、今回の集英社セールでなんとなく手を伸ばしてしまった。
読み終わった感想ですが、とてもとても面白かった。「家族と高校に通うことになったら?」というシチュエーションコメディが本分ではあるのですが、そこに頼りすぎることはなく、家族一人一人の高校生活を掘り下げていく枠の中で心地よいずれや掛け合い、着眼点を持ったギャグで楽しませてくれる。
ちょっとほんわかさせたりしてくるいい話もあるのですが、やりすぎはせず、ちょうどいいところでギャグを入れて〆る。一話完結ですがイベントや登場人物を浪費せず、線と流れを持った物語も見せる。そんなわけはないだろと自分でも思うんですが、夢中で読んでいるとなんか青春の切なさとか高揚感、もどかしさみたいなものを読んでいて感じるんですよね。感じるたびに適宜休憩をとるようにしていたのですが、戻ってみるとたしかにやっぱり、この作品からはポカリスエットの味がする。
企図の奇妙さを差し引いてみても、傑作と呼ばれるに値する漫画だと思います。テキストにはお笑いのほうにも、真剣なほうにも、そしてなんでもない日常の描写にもなべて発揮される確固としたオリジナリティとセンスの良さがあって、正直大人向けの漫画になっていると思います。
とくに「一分待って」のところや、「封じ手」には痺れました。この解像度で世界を見ていて紙の上に再現できるのであれば、題材関係なくなにを書いてもこの作者の漫画は読者を楽しませると思う。とにかく長い間キャリアが続いて、1pでも多くの漫画を描いてほしいなと思いました。
アグレッシヴな描写はほとんどないためどんな人にもおすすめできます。本当の傑作です。