「こちらフォーリッシュ、敵は西部を進軍中」「お嬢様誘拐大作戦!」「てのひらにあまるもの」

 

 最近はpixivで、「しま」さんというスクリーンネームのひとのssを読んでいた。ドラゴンクエスト7の二次創作で、個人的にドラクエ7が生まれてはじめてやったゲームで思い入れもひとしおなコンテンツということもあるが、それにしてもとてもよかった。

 

 読んだお話は、「こちらフォーリッシュ、敵は西部を進軍中」「お嬢様誘拐大作戦!」「てのひらにあまるもの」の3つ。

 

#ドラゴンクエスト7 こちらフォーリッシュ、敵は西部を進軍中 - しまの小説 - pixiv

 こちらは過去のフォロッドで、からくり兵団拠点突入のめどが立つちょっとまえのあたりを描いたお話。……フォロッドのストーリーでもっともドラマティックな部分は「エリー」がらみのところだと思うのだけど、この話で切り取られて描かれているのはそれとは異なるところ。

 なので、すごいドラマがあるわけではないのだけど、かわりに、フォロッドやフォーリッシュの人々と混じってともに戦う、からくり兵との戦争の様子が、地に足の着いた描写とともに繰り広げられる。

 

 ゲームをプレイしているだけだと、どうしても捨象された体験になってしまう部分にフォーカスを当てているようなssで、これが二次創作の醍醐味だよなあ……、と深く感動した。

 

からくりは遮蔽物を考えず、遮二無二腕を振り回すから、武器が酷く痛んでいる。刃毀れや傷の無い、未だ使われていないものを見付けるのは至難の業で、キーファの装備する斧は運良く見付かった一つであった。

(…)
「まあ、次の世界に行けば、もっといい武器が手に入るだろうしな」
 こいつとも短い付き合いだろうと、キーファは斧の背を叩いた。
「次の世界はどんな所だろうな? ちょっと気が早いけどさ、オレ、今から楽しみだよ」

 あと、ゲームの小ネタ*1が物語の流れの中で自然に語られると、原作ファンとしてはいい気分になれますね。このシーンではキーファがうるさすぎて、「いやお前の武器それで終わりだから!」とちょっと切れてしまった。*2

 

#ドラゴンクエスト7 お嬢様誘拐大作戦! - しまの小説 - pixiv

 「お嬢様誘拐大作戦!」はクリア後の世界が舞台。漁師になってあまりかまってくれなくなったアルスの気を惹こうと、マリベル狂言誘拐をプランニング、その相談のため山賊のアジトを訪れるという話なのだが、ドラクエ7をどんだけ好きだったら山賊のアジトの話で16000文字書こうってなるの?って思いませんか。

 

 こちらも、激動のドラマがあるわけではない話なのだが、山賊のアジトや山賊たちの「なるほどな~」という感じの詳しい描写を読みながら、ゲーム画面に映っていた山賊のアジトを思い出すという、とても幸せな時間を読みながら過ごすことができた。

 

「こんにちは~……」
 アルスは如何にも頼りなさそうに入って来た。随分と日に焼けたが、相変わらずひ弱そうな雰囲気を醸し出している。敷物に座って、山賊のかしらと話していたマリベルは、そちらに顔を向けた。

 

#ドラゴンクエスト7 #アルマリ てのひらにあまるもの - しまの小説 - pixiv

 こちらはどちらかというとcp要素が強めでちょっと短め。でもcp要素強めの作品も面白いし、個人的にはこのキャラはこうだよな~という感覚も一致していてとても楽しく読める。

 

 アルスは大分髪が伸びた。前髪は適当な頻度で切っているが、後ろは殆ど手を入れていない。理由はまた単純なのだが、マリベルが何とも言わないからだった。彼女は長髪が嫌いではないらしく、アルスが襟足を適当に伸ばしていても、寝ぐせさえ整っていれば構わないようだった。マリベルさえ気にしないのなら、切って床に散らばった毛を掃除するのも面倒だし、漁の邪魔なら紐か何かで縛ろうかと思った。そうして、ぼんやりと鏡を見ていたら、ふと、マール・デ・ドラゴーンの老人に、頭領が洟垂れだった頃に似ていると言われたことを思い出した。すると、何だか急に気恥ずかしくなって、後ろはばっさり切ってしまおうと決意した。

 このパラグラフ良すぎて額に入れて飾ろうかと思った。長髪に別に文句を言わないマリベルも素晴らしい創作ディテールなのだが、それをいいことに前髪は切るけど後ろをなんとなく伸ばしてるアルス、でも老人にからかわれて切ろうってなるアルス、実態感がありすぎる。

 仲間キャラはともかく、主人公のキャラクターもしっかりつかんでいるドラクエ2次創作、いくらでも推せる…。

 

*1:僕自身はあまり好きではないプレイだが、過去フォロッドでからくり兵が低確率でドロップする「鉄の斧」を入手するまで粘る、というのはドラクエ7の人気の攻略ルートである。

*2:なにが次の世界だバカ