1920年代って面白すぎないか?~『避けられた戦争 一九二〇年代・日本の選択』~

 

 ちょっと前に、教科書をそのまま拡張したような日本史の参考書を読んだのだけど、そのとき、1920年代の日本に意外に思う気持ちを持ったんですよね。

 それまで、第一次世界大戦後、遅れて帝国主義政策に全振りする日本は中国やアメリカ・イギリスと対立。そのうち「関東軍」とかいう謎の組織が満州を攻撃し、そのまま大戦争へ一直線――、といった一方向のストーリーとしてなんとなく把握していたのですが、その期間に実は、戦争へ向かう趨勢を逆の方向へなんとか押し戻そうとする動きもいくつかあったということが書かれていて、それが意外で、でもたしかに言われてみればそれはそう(なにごとであれ、一枚岩ということはありえない。現実は複雑)だよなあと思ったのでした。

 

 というわけでたまたま見つけた『避けられた戦争 一九二〇年代・日本の選択』という本を読んでいたが、とても面白かった。

 

 日本が戦争に向かっていった現実の流れと、それに対抗できる可能性のあった(でも実現しなかった)さまざまなプランについての記述を積み重ねて、ヴェルサイユ条約から満州事変までのことを、歴史書というよりは歴史の教科書のようなスタイルでまとめた本である。

 

 蒋介石は、一九二七年四月の反響クーデタ以来、国民党から共産党ソ連の影響を排除していたのだから、{日本側が}*1反共の立場から国民革命を敵視する理由は薄れていた。それ故、この時点で蒋介石の国民革命支持に転換していれば、満州も含めて、中国の反日運動は沈静化し、日本の満蒙利権も、交渉で一部の放棄を迫られたかもしれないが、守られた可能性はあったのではないか。方針転換して、漢口や九江の租界を返還した英国がその後も香港を保有し続けたように。

 そして章の変わり目などにちょっとずつ、――たまに皮肉を交えて*2、歴史の「If」について述べる。

 

 教養として得るものがかなり大きい読書であったが、あえてエンタメ的な側面で見てもとても面白い本だった。

 

 なんというか、1920年代の極東ってとても面白くないですか。中国では軍閥(まず軍閥って何?)が割拠、列強が利権を求めて侵入していた混乱期から、国民革命が立ち上がってくる。日本は大正の平和を謳歌しつつも、植民地支配を進め、でも立憲・政党政治は定着しつつあり、軍は力を持っていたけれど、不戦条約や軍縮条約に調印するなど国際協調して平和を目指す機運もあった。

 そんな、どちらに触れるかわからない不安定な時代のなかに、勇み足で張作霖爆殺事件を計画しつつも微罪放免となり、のちの満州事変にも深くかかわることになる「河本大作」や、「東洋のセシル・ローズ」を自認し満州利権確保を強く推進した「森恪」、逆風が国内から吹くなか国際協調の日本を目指しつつも敗北したネゴシエイター「幣原喜重郎」といった印象的なキャラクターの登場人物が活躍する。

 

 ……まだちょっと表現の自由が足りてないので、大河ドラマとかではできないんだと思いますが、実際幕末とか戦国時代に並ぶ国民的コンテンツになると踏んでいる。*3

 

 もっとこの時代について知りたいとおもいました。絶対面白いぜ。みなさんも一緒にどうでしょうか。そして1920年代について語りあいたい。

*1:この引用箇所だけだとわかりにくいので補った主語です。

*2:戦争を回避したところで歴史のダークサイドはすぐに終わるかというと、そうではない見込みのほうが高いのである。

*3:ただの予想ですが。