海へ出てぼくはそよ風の柩に入った~『ウンガレッティ詩集』~

 

 こういう本はたまに読むけどそんなに響かないことが多いのだが今回は響いたのでちょっと感想を書くぜ。

 

 「双書・20世紀の詩人」シリーズのひとつで、ジュゼッペ・ウンガレッティさんの作品が収められている。岩波文庫で「全詩集」も出ているみたいですね。

 

生と死を見つめ自己を見据えたその詩風によって、救いを希求しながらもいかなる安易な救いも拒むその姿勢によって、また簡潔でありながら従来の詩の伝統を越え出る新たな詩表現によって、イタリアの現代詩を切り開いた。20世紀イタリアの最高の詩人の一人であり、20世紀文学の巨人の一人とも目されている。

 今日読むまで1ミリも知らなかったけど、かなり上のほうの格の作家らしい。

 

両手でこねていると土が
蟋蟀だらけなので
ぼくは唱いだしてしまった
いつもと同じ
病んだ心で
つつましやかに

「消滅」

 第一次世界大戦に従軍した戦争詩人であり、戦地での心境を描写した詩が本の序盤のほうには並んでいる。個人的にはけっこう第一次世界大戦のころの戦争詩人がけっこうフェチに刺さっていて好きなので*1、今回の作品もとても「いいなあ~」と思いながら読んでいた。

 

「通夜」

一晩じゅう
身を投げ出していた
虐殺された
戦友のかたわらに
彼の口は
満月に向かって
歯ぎしりし
彼の手は
流れる血を
ぼくの沈黙のなかに
滴らせてきた
ぼくは書いた
愛にあふれる手紙を

かつてこのときほどまでに
かたくぼくは
命にしがみついたことがなかった

 こんなものはもう絶唱である。もっと技巧が前面に出ていたり、美しかったり、深みが陰影がある詩もたくさんあるが、ずっと記憶に残るのはきっとこれだろうな。

 

「山鳩」

山鳩の鳴く声にぼくは別の大洪水の音を聞いている。

 ほかには、3~4行ぐらい、――あるいはこれみたいに1行しかないかなりミニマルな美意識を出している詩があったり、後年の作になるにつれて神話や宗教を題材にとるハイカルチャーな作品が多くなるのも目に付いた点だった。

 

 どちらかというと魂というよりは技で勝負している詩人のような気がするので、後年の作品のほうが質としては良いのだろうな……、という雰囲気はあったがちょっといまの僕の読解力と知識ではそんなちゃんとは読めなかったのが心残りである。

 

海へ出て
ぼくは
そよ風の
柩に入った

「美しい夜」

*1:ウィルフレッド・オーウェンとか、ジークフリード・サスーンとか好き。