足りておらず、必要としているのであればこちらのアーティストをおすすめしたい。名前は「フレネシ」で、所属レーベルは「乙女音楽研究社」。「8歳のころにささやき声しか出なくなった」という異色の経歴を持つ。
この「不良マネキン」という曲のPVをちょっと通しで見ていただければ、アーティストの世界観は伝わるのではないか。文章に起こすと、日本のレトロでポップな文化にインスパイアされた、ささやき声のボーカルとおしゃれながらもちょっとした抜け感があるエレクトロサウンドで、世界観に忠実ながらそうすることでシリアスな笑いも同時に生み出す軽くて妙なテクスト、という感じになるでしょうか。
出ているアルバムは4枚。どれもアートワークが特徴的だし、物理盤では本みたいに薄い帯みたいなのがついているのだけど、そこに書いてあるあおりテキストも素敵だ。とくに「心臓を開けたら、針。」というのにはびっくりして、ブックオフで見つけたときには「これはだれにも渡さない。俺のものだ」と思って急いで胸に抱えてしまったよね。
そのときの状況をタロットカード1枚で表すとしたらこうなる。ちなみに、フレネシでspotifyを検索するとプリキュアのアルバムもヒットするのだけど、さすがにこれは関係ないと思う。
いくつか名曲を紹介しよう。「地球空洞説」はアルバム「ゲンダイ」の1番目の曲で、フレネシにはめずらしく前のめりな勢いのあるロックっぽい曲である。
この曲に限ったことではないが、メインか脇役かでいうと残念ながらこの世の中では脇役で奇妙なものとして取り扱われるものだけど、それでも独自の魅力を持っている、タイトルにもある地球空洞説のようなとり残された物事を不思議に乙女に再解釈して提示する。
そういったとり残されたものを、もうすこしシリアスにエモく調理しているのが「スプロウル」だ。かすれるようなメロディーラインが、クラシカルなようでもあるしエキゾチックにも聞こえる奇妙なリズムの上で流れて、緊張感を持続したままボーカルの入りまで引っ張っていくイントロの時点で圧巻である。
「ドルフィノ」からは「GO ROPEWAY」だ。ダイナミックに感情を揺さぶってくる美メロもあればこういう、抑制の美学みたいな奥ゆかしいメロディーもあるのが、すきです。
行き先を決めたら
杜撰な世界地図を
四次元フィルムに書き直す
歌詞もたんにモチーフに特徴があるだけではなく、その特徴のあるモチーフをそれが喚起する感情に気の利いた形でつなげて全体としての構築性をだしているし、ところどころのポエるべきところもしっかりとかっこいい。
2014年に音楽活動を休止してしまったが、いまだに音楽を聴くし、LINEスタンプも愛用している。
とくに「UNI」は「了解」「謝罪に対する許し」「既読のサイン」「じゃれつき」といったあらゆるシチュエーションで使えるので、非常にお世話になった。今後ともよろしくな!