EURO決勝戦のレジェンドになった「ミセス・グリーリッシュ69」

 

 サッカーでヒーローになるのはピッチ上の選手だけではない。スタジアムに来ているだけの観客が、一夜にして注目の人物となることがけっこうある。

 

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 このスイス人サッカーファンもその1人である。EUROの違った一面に着目したアワードを紹介するこちらのFootbollistaの記事「EURO2020閉幕。英国メディアが発表した“もう1つのアウォード”」によると、「1点ビハインドで迎えた89分23秒には絶望的な表情のスタンドの男性ファンが映し出されたが、その95秒後、同じファンが上半身裸でマリオ・ガブラノビッチの同点ゴールに歓喜していた」ことが印象深かったため、このスイス人サッカーファンは「私たちは君と同じ賞」を受賞したという。

 

 この絵は面白すぎた(そして、愛らしかった😊)ので、日本のインターネットでもいたく話題になった。つぎのスイスvsスペイン戦のチケットを航空会社からプレゼントされた、みたいなアフターストーリーを聞いたような気もする。

 

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 そのおなじFootbollistaの記事で「お母さん、あれはどういう意味? 賞」を受賞したとして紹介されたのがこのイングランド人サッカーファンである。僕はこれをリアルタイムで観ていて、なかなか文字は読み取れなかったけど、どうやら「ミセス・グリーリッシュ」と書いてあるな、背番号は69だな…、(グリーリッシュの昔の背番号が本当に69だったとか)なにか背景があるのでない限り、かなりのたわけがいるな…、と思って見ていた。

 

 しかも後で知ったのだけど、どうやらこれはグリーリッシュのいるアストン・ヴィラではなく、マンチェスター・ユナイテッドの3rdユニフォームらしい。

 

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 これをイギリス人は「面白」として捉えたらしく、Twitterで「Mrs Grealish 69」と検索するとイギリス人が大ウケし、自分が生まれた国のユーモアを誇りに思っている様子が映し出される。

 

 そんな「ミセス・グリーリッシュ69」のインタビューがあるとFootbollistaの記事で言及されていたので、そのインタビューをつたないが翻訳してみた。その記事には本人提供のいい写真がいっぱいあるので、見比べながら読むと楽しいと思う。

 

 実際のところ、このユニフォームは、「ミセス・グリーリッシュ69」ことダーシーさんの妹のもので、マンUファンなのにグリーリッシュのことばっかり考えている妹が誕プレでもらったジョークグッズらしい。

 

 日本語でこの「ミセス・グリーリッシュ69」についての情報はまだあまりない。決勝戦を見てて「おや」と思ったひとはけっこういると思うので、これがなにかの役に立てばうれしい。

 

 「ミセス・グリーリッシュ69」を訪ねて
みんなの笑顔を生み出したEURO決勝戦のレジェンド

 

いまやインターネット有名人「ミセス・グリーリッシュ69」となったダーシー・フィップと会った。彼女によれば、彼女が愛してやまないフットボール・プレイヤー、ジャック・グリーリッシュは「わざとつれなくしている」のだという。
EURO決勝戦の巨大なスクリーンに自分が写ったこと、そして何万人もの観客の目に触れたということを彼女が知ったのは、イングランドが試合に負けたその日曜の夜のことだった。

 

イングランド対イタリアの決勝戦、ジャック・グリーリッシュが途中投入される準備をしていたその時、妹の「キツい」ユニフォームをグリーリッシュにむけてひらひら振っていたのが彼女だった。
試合終了の数分後に機内モードをオフにすると、それから彼女の携帯は狂ったように鳴り止まなかった。

ユニフォームを振って叫ぶ彼女の画像はミームとなり、大手ファッションブランドのBoohooもそれを拡散した。ちなみにグリーリッシュの彼女であるサシャ・アトウッドはBoohooのモデルをしている。

 

マンチェスター・イブニング・ニュースに対してダーシーは冗談めかしてこう語る。「グリーリッシュとその彼女は『共同作業』を頑張らなきゃいけない関係なのはわかってるけど、私はまだジャックがDMを送ってくれるの待ってるからね」

 

彼女は続ける。「誰だって、『ミセス・グリーリッシュ』にはなりたいでしょ」

 

「もちろん、あのユニフォームはテレビに写すために持ってきたものじゃなくて、あれはじつは妹のなんです。会場では隣に座っていました。話すと長くなる笑い話なんですけど。私の妹は、生粋のマンチェスター・ユナイテッドファンだって自分では言っているけど、無限にグリーッリッシュの話をしてスパーズファンの同居人をからかっているようなやつなんです。

私の妹はユナイテッドの結果よりもグリーリッシュのグッズのほうに興味ある、って同居人は言ってます。それで、妹の誕生日になった時に、背中に大きく『Mrs Grealish 69』ってプリントしてくださいってお願いして、めちゃくちゃ『キツい』ゼブラ柄のユナイテッドの3rdユニフォームを作ってプレゼントしたんです。

勝戦に行くときに、私的にはグリーリッシュ大好きだし、あのユニフォームは必須アイテムだと思ったんですけど、妹は触れたくもないみたいでした。私は妹に着て欲しいと思ったけど妹は『ダーシー、これはグリーリッシュの名前が書いてあるマンUのユニだよ? 私ボコボコにされるよ?』って言っていました。

あの時は、グリーリッシュがウォーミングアップして試合に出る準備をしているのを見て、私は興奮して「ウォー!!」ってなっているだけだったんです。グリーリッシュの名前がマンUのユニに書かれているのを不可解に思ってるひともけっこういたみたいですけど、そういうことを言う人って、いつもちょっと考えすぎなんですよ」

 

コナー・ハンドリー=コリンズという親友と一緒にウェンブリー・スタジアムで行われたドイツ戦、デンマーク戦の勝利を見て、彼女は、2人が試合を見に行くことがきっとイングランドの勝利の験担ぎになると考えた。

ダーシーは妹のサスカ・フィップのぶんも含めて、なんとか3枚のチケットを手にいれた。

「破産寸前でしたけど、よく考えると、私がイングランドにとっての幸運のお守りなら、決勝に行かなかったら私の責任になっちゃう!って」

 

スタジアムのオーロラビジョンが彼女を映し出した結果、彼女は大量の通知を受け取った。「涙が出るくらい笑ったよ」「大会のハイライトだ」という好意的なメッセージもあれば、「ミセス・グリーリッシュというよりは、グリーリッシュのママって年齢じゃない?」という、面白いけど生意気なものもあった。

彼女は言う。「彼からまだ連絡は来てないです。たぶん、無理して冷たくしてるだけなんですよ。(笑)もし私に連絡なんかしたら、彼女さんは大喜びはしないでしょうからね」

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