「水族館」から6年が経つ

 

 やる夫スレの形式でショートストーリーを作っていたときに作った「水族館」という話がいまでもとても気に入っている。

 これを見てくれているかたが多少いて、そういうかた全員に好評だったかというとそうでもないのだが、それでも、個人的にはよくできていると思っていて、これが自分の作ったお話で良かったなあと思えるような、思い入れの深いお話なのである。

 

 海の夢を見るはじまりの詩的な描写は、それっぽく作ろうとした即興だったのをおぼえている。ほめるほどの出来ではなく、もっとよくしようと思えばいくらでも方策はあると思われるが、かといってめちゃくちゃ悪いわけでもないのではないだろうか。

 夢の海の描写のあとは、この話にとって重要な「前世」の世界観の説明パートがある。偶然みんな海の生き物を前世に持っていた教室のなかに、ひとりの異分子を紹介するところで導入部分は終わる。

 

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 そのあとは人間関係の説明とお話の展開がつづく。クラス旅行で行くことになった水族館の、移動のバスで窓側の席を譲る場面などはきれいだ。

 夢と現実の間の壁だったりガラスの窓だったり水槽だったり、とにかくなにかしきりとなるものがあって、こちら側の世界から向こう側の世界を憧れるように見つめているものがある、……という構図が繰り返される話になっているが、それがお話の道具として前景に出るのが「移動のバスで窓側の席を譲る場面」になるだろう。

 

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 ツノダシというのはこういう魚である。この魚が登場したあとから、お話は終わりに向かって転がりだしていく。学生的な愛の告白があり、その裏で、もうひとつべつの告白がある。

 

 わかりにくい話ではないと思うのだけど、ある一か所、作った本人としてひとつ反省点がある。「前世」だったり「生まれ変わり」をモチーフとしているお話なのだけど、生まれ変わりをする人や動物には、じぶんと同時代に、あるいは自分よりまえに生きているものに生まれ変わることがある、という僕が勝手に自明だと思っていた事態にはたぶん作中の説明が必要だったというところである。これはやろうと思えばできるはずなので、完全に僕の落ち度である。

 

 そういう欠点はあるが、それでも恥ずかしがらずに6年たった今でも読みかえせるし、なんなら自分で読んでも面白いといった点で非常に助かっているお話で、個人的な満足度は大きい。

 

 いろいろお話を作ってきたけれど、どれか1つ無人島に持って行くなら、と言われたらこれが候補に挙がるかもしれない。気に入っている。