天国で聞くギャグみたいな音楽

 

 「これはおそらく僕のために作られた音楽だろう」、と思えるような音楽を見つけると嬉しくなる。「僕だけのため」というとおおきく出ることになってしまうからそうは言わないのだが、きっとこれを好きになる、これに心を奪われて、どうしようもなく没頭して聴いてしまうのは、すくなくとも僕の交友関係のなかでは僕だけだろう。

 

 The Polyphonic Spreeだ。この曲をはじめて聞いたとき、イントロで、まじで冗談じゃなくイクかと思った。

 鳴っている音は非常にセレスティアル、天使の世界の音楽のように聞こえるのだが、同時に前衛活動家がふざけて作った悪い冗談のようにも聞こえる。しかし、それとは裏腹に曲のベースにはなんらか切迫したものがあり、提示されている世界観にベットするかしないか、決断を迫られているような感じもあれば、その焦りも含めてゆったりと抱擁されている感じもある。

 

 しかしこういう、冗談と、それが裏返ってすべての真実になるひやっとした狭間の世界を見せてくれる音楽が好きなのだ。

 

You know that I know that you’re popular by design
You know that I know you’re wonderful in the light

 この曲ではサビのリフレインはわけわからないことを連呼しているのに、あまりにも自信をもって歌っているのでなにを信じればいいのかわからなくなる。

 「宗教」の場で流すのにはふさわしい音楽だと言える。すくなくとも俺はこれを夜じゅう流すライブの場にいて正気を保てる自信、――いままで正気の世界だと思っていたことのひと部分ひと部分を信じ続ける自信がない。

 

2000年、存在していなかったそのバンドは彼ら先駆者の助けで30分で形作られた。次第に、そのバンドは様々の付き合いにより形を為していった。30分の音楽は13人のオリジナルメンバーによりリハーサルされ、反応は圧倒的にポジティヴだった。バンドは25人のメンバーが流動的に加わり現在の人数となった。初公演でのセットリストは『The Beginning Stages of The Polyphonic Spree』と題され、10番目の曲目『A Long Day』(ティム・デラフターの11年の声のサンプルから完成した)と一緒に、その巨大なバンドを主催しなかった懐疑的な開催地に記録され配布された。結局その音楽CDへの需要は大きくなったのでアルバムが発売されることとなった。

ポリフォニック・スプリー - Wikipedia

 Wikipediaの記述もとうてい正気を保っていない。「反応は圧倒的にポジティヴだった」ってマジでなんなの?

 

 そして彼らのなかでも圧倒的な再生回数を持っている*1のが、このニルヴァーナの曲のカバーである。ニルヴァーナなんて鬱で現世的な音楽を、こんな天上的で圧倒的に躁なグループがカバーしちゃったら、どうなるんだよ! と思って恐る恐る聞いてみたら、どっちにも寄らない奇跡の中間地点というかないまぜというか、なんとも言えないカバーリングが行われていて、すごかった。ふつうもうすこしどっちかに寄るだろ。

*1:どうやら、映画「スーサイド・スクワッド」で流れたらしい。