坂井修一さんの歌集『群青層』を読んだ。とても面白い歌集だったので、とりあえず1枚フリー画像素材を貼ってから、良かった歌を挙げて、「良かった!」と言っていきたい。
雨後の蝶ながく歩みのまへをゆく洞峰の径空まで寒し
「雨後の蝶ながく歩みのまへをゆく」ってきれいな描写ですね。(季語があるのかは僕は判断できないが)前半部分を切り取っても一線級の俳句になっているタイプの短歌で、後半部分では、前半でクローズアップされた水平方向の空間感に直交する大スケールな言葉を突っ込んでいてめちゃくちゃかっこよくなっている。
光ほろぶ
西 天涯のしづけきをアザラシは首たてて聴きをり裂断面ゼリーのごときを
吾 に見せてぼつてりとアロエ春にちかづくやさしさはいまだ怠惰の謂なるを郭公まみれぞわが沈黙は
「郭公まみれぞ」は、ちょっと趣の違う青春の歌できゅんとする。光景のまぬけさと、それにあてられた言葉の迸っているまっすぐな、でもちょっと周りの見えてない感じが良いですね。
石の壁片くづれしてまつすぐに砂漠となりぬこの石の壁
最初の5音と最後の5音がおなじフレーズになる短歌というのはかっこいいと思っていて、なんどか試してみたこともあるのだけど、これくらい決まっている歌を作ってみたいですね。
ちなみに、イスラエルに行ったときの歌らしいです。この周辺にあるほかの歌では、車に石を投げられるなどの体験が詠まれていた。
赤蟻はいつしんに秋の穴くだるあたたかならめ闇底の土
蟻が巣穴を下っていくことを書いた文って僕読んだことない気がするんですよね。やっぱり、蟻を出そうとすると、ふつうはなにかに集まっている様子とか、列に並んでいる様子とか、たいてい地上のことがすぐ思いつくのでそれを書いてしまうと思うのだけど、こういうふうに、なにげないところでまだだれも話題にしていなかったことを話題にできるのはほんとうにすごい。
たまねぎは
剖 かれゆけりアニメージュむらさき色の髪の美少女Verweile doch!du bist so alt!(Universitätsbibliothek)
この2首は「そういうのもあるんだ」枠でした。アニメージュの歌は、この感じのなかに突然アニメージュが出てくることがあるんだ、と思ってちょっとびっくりして、「美少女」まで読んで歌意が取れたあとも、まだちょっと疑いの気持ちもあって一応「アニメージュ 花 品種」とかで検索したよね。
ドイツ語の歌は、これは僕はドイツ語は一切勉強したことがないんだけど、それでもぎりぎり意味が取れてちょっと面白かった。うまく検索すると作者による自作注ブログも見れるのでおすすめです。