最近の謎:「特別法は一般法に優先する」って何?

 

 法律には「特別法は一般法に優先する」というルールがある。なにかについてのルールを複数の法律が決めていて、それぞれの法律の言っていることが違うときは、法律のうちより一般的な視点で物事を取り決めているほうよりも、より特殊な視点で物事を取り決めているほうの規定を優先して解決する、という決まりのことである。

 

 たとえば、公務員一般について定めた法律Aが、「役職Pにある公務員の定年は、さまざまな事情を考慮してトップが任意に延ばすことができる」と定めていて、同時に、検事について定めた法律Bが「役職Pの検事の定年は最大65歳までである」と定めている場合、法律Bのほうが特殊ケースを扱っている法律なので、法律Bのルールのほうが優先し、任意に決められるとしても65歳を超えてある人物を役職Pに据え置くことはできないですよ、……ということになるのである。

 

 ただ、この「特別法は一般法に優先する」というのはいったいどういう種類のルールなのか? というのがいますごく気になっている。いくつか案を考えてみた。

 

1.これ自体も法律

 最初に思ったのは、「特別法は一般法に優先する」というのも、法律がバッティングしたときに適用する法律を決めるための法律である、という案である。

 

 「法律どうしがバッティングしたときの解決策をまとめた法」というような遊戯王公式のFAQのような法律がどこかにあり、その他のメタ法律とともにまとまっている、という感じだと美しいのだけど、調べてみたところこれ自体が法律であると書いてある記述は見つけられなかった。

 もしこれ自体も法律なのであればたぶん調べられるところには書いてあるくらいの基礎情報ではあると思うので、おそらくこれ自体は法律ではないのではないか、とは思うが…。

 

2.ふつうの必然的論理的帰結

 特殊例を定めた法律と一般例を定めた法律があるときには、特殊と一般という性質から直ちに、特殊例を定めた法律のほうが優先されるという帰結が得られる。なので「特別法は一般法に優先する」は法律ではなく、論理規則のようなものである。

 ……という線も考えたが、特殊と一般、というものの、法律の局面を離れた一般的な用法では前者が後者を書き換えられるとは必ずしもいえないような気がする。生鮮食品半額の日に、見切り品-30%というシールが貼られたエリンギが置いてあったら、どっちか迷いませんか?

 

3.法律の世界ではふつうの必然的論理的帰結

 一般ルールと特殊ルール、生活の世界では一概に優劣は決められないが、「法律」に限っていうと決められる、という考えもありそうだ。

 

 法律になぜ拘束力があるのか、絶対法哲学的なジャンルで定説があるとは思うけど、悔しいが知らない。なので当て推量なのですけど、法というのはある意味でこう、関わるみんなが同意して決めたから、自分の意志には従うでしょ、というような意味で拘束力があるのではないかと思われる*1

 法律を自分の意志、というところまでさかのぼって考えたら、具体的にどう理屈づけられるのかはわからないけれど、一般例が特殊例に勝てない理由もわかるような気がする。状況に対して絞り込んでからした意思表示のほうが、あいまいでどうとでも取れる要素が多い時点でした意思表示より優越するというのはけっこう自然ですからね。

 

 しかし、法律の場面でも、憲法という一般ルールに違反しているということで個別の法律が「変えたほうがいいですよ~」とプレッシャーをかけられることはある*2というそぐわない例はある気はする。

 

4.法律にまつわる事後的な規則性

 論理的必然ではないのだけれど、法律が一般vs特殊でバッティングするケースで、それぞれ正攻法で条文だったり立法意図だったりに即して検討すると、ほとんどのケースで一般法より特別法を適用するほうが正しいという結論になる。なので、そのことを事後的な経験則としてまとめた言葉が「特別法は一般法に優先する」である。

 

 という線もなくはないのかもしれないけれど、けっこうこの言葉って規範的に言われているのでたぶん違うのだと思う。

 

5.法律とは別のなんらかの拘束力を持つメタルール

 インターネットで「特別法は一般法に優先する」を検索すると、法諺という言葉がよく出てくる。ローマ法にさかのぼる、法律に関することわざを差す言葉のようだ。

 

 「特別法は一般法に優先する」は法諺でした! 終わり。でもいいのだけれど、にしても法諺って何? という謎はふつうに出てくる。ことわざなのだとしたら、どんな理由で「特別法は一般法に優先する」に拘束力があるのか不明である。

 

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 わからなかった。

 

*1:ぜんぜん違うかもしれない。

*2:憲法がここでの意味で法律と同列に扱えるものなのか、というところと、そういう判断を裁判所から示させ、立法を促せる、というだけで実際に憲法が法律に積極的に優越しているわけではない可能性、という点では弱い反例だ。