『ハーフリアル』で描かれるサッカーにおけるスポーツマンシップ

 

 イェスパー・ユールさんというひとの書いた『ハーフリアル』という本を読んでいる。コンピューターゲームについての専門書、コンピューターゲームについて学ぶための最初の一冊としてよく名の上がる本である。

 

 『ハーフリアル』ではコンピューターゲームについて論じるときに、比較相手や一例としてスポーツを取り上げることがある。

 

2.力の差のある場合に公平性を維持する:サッカーの大会試合では、一方のチームの選手がフィールド上で怪我をした場合に、もう一方のチームがボールをフィールド外に出すことが通例になっている。これは、プレイを中断させて、怪我をした選手を手当てする時間を作ると同時に、怪我をしたプレイヤー側のチームにボールを渡すことでもある。

 ここは、「ゲームには固定されており、適用の基準が厳密に決まっているルールがあるが、それ以外にもあいまいだったり非明示的な取り決めがあることがあり、スポーツマンシップもそのひとつである。スポーツマンシップの例として以下のようなものがある」といった文脈で出てくる部分なのだけど、この「サッカーで怪我をしたときにボールを出す」の記述はちょっとへんに映る。

 

 正しくは、以下のようになるのではないか。

 

 サッカーの試合中、ある選手が怪我をしたとき、怪我をした選手がいるほうのチームに所属しているのかいないほうなのかにかかわらず、怪我が重大でありゲームを止めるべきである、と判断した場合、ボールを持っている選手はボールを外に出してプレーを中断させる、という選択をすることがある。

 

 その中断のあいだに、怪我をした選手はピッチを離れる(その後はすぐに戻ってきたり、しばらくして戻ってきたり、そもそもピッチを離れずすぐ立ち上がったり、試合続行をあきらめて控えの選手と交代したりする)。

 選手がピッチを離れた場合は、その選手のことはいったん放置して試合を再開する(選手がピッチを離れたほうのチームは一時的に1人少ない状態で試合を戦うことになる)。

 試合が再開するとき、ボールは、ボールをピッチの外に出してしまったことに対する軽いペナルティとして、ボールをピッチの外に出したチームではないほうのチームに渡されるが、このボール出しは試合の正規の流れのなかではなく、けが人の救護のために紳士的に行われたボール出しのため、ボールを受け取った「ボールを出したチームでないほうのチーム」はボールを出したチームにボールを返す(具体的には、ボールを出したチームのゴールキーパーに長くて優しいボールを蹴ってパスする)。

 このとき、怪我人が出たのがどちらのチームだったかは関係ない。けが人が出たほうのチームがボールを出したのであれば、そのチームにボールは返ってくるし、怪我人が出たほうではないチームが出したのであれば、そのチームにボールが返ってくるのである。

 

 どちらかというと、「紳士的な行為があった際に公平性を保つ」ために行われている慣行であり、「力の差のある場合に公平性を維持する」ためのものではないと思う。

 

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